幕間の物語:彼の決断
「クロード団長! それで貴賓席の招待状、渡すお相手は決まったのですか?」
「イアン、その件は……」
「クロード団長、まだ貴賓席の招待状、渡せていないのですか? もう時間がないですよ。なんなら自分が女装して、観覧しましょうか?」
「えー、リンドン副団長はトリコロール剣術祭に出場されますよね!? それだったら僕が女装しますよ。こう見えて僕、線は細いですし、肌だってツヤツヤですから。なにせまだ17歳ですし。結構、ドレス着たら、映えると思いますよ」
「リンドン、イアン、そんな悪夢、やめてくれ。そんなことをされたら、勝てる試合にも勝てなくなる。それどころか翌日から変な噂で持ちきりになるだろう」
まったく、リンドンもイアンも、好き勝手なことを言い出して。
リンドンなんて身長は190センチあり、筋肉質で体重も80キロ近い。
そんな巨漢が女装なんて……悪夢だろう。
イアンは逆に、本人が言う通り、色も白いし、騎士の割りに線が細い。
これで女装すれば……似合い過ぎるだろう。
どっちが女装して貴賓席に登場しても。
間違いなく、あらぬ噂が立つ。
そもそも。
なぜ母上は招待を断るのか。
妹は嫁いでしまった。しかも妊娠が判明したばかりだし、無理はさせられない。
息子が困っているのに母上が助けないのは……。
父上だ。
父上が、母上に断るように指示したのだろう。
貴賓席に座るのは、トリコロール剣術祭に出場する騎士が大切に想う相手。多くの騎士が、貴賓席に自身の伴侶、婚約者、恋人を招いている。家族を呼ぶなんて……自分ぐらいだろう。
つまり父上は、貴賓席に招待する女性は、家族ではなく、将来伴侶とする女性にしろ――ということだ。
父上がここ最近、何度も自分に告げる言葉を思い出す。
――「クロード。リッシュモン公爵家の直近の跡継ぎはお前だ。だがな、私はその先の未来も見据える必要がある。お前がリッシュモン公爵家を継いだら、その次はどうする? お前の次となる跡取りが必要だ。そのためにはクロード、まずは婚約をする必要がある」
18歳になってから。
婚約者を作らないのかと問われ。
まだまだ道半ばと父上の言葉を無視しつづけていたが。
この春、剣の騎士団の団長に就任してからは。
屋敷に戻ると、机にはこの国の妙齢の令嬢の身上書が置かれている。
婚約者。
リッシュモン公爵家の嫡男として、伴侶を見つけ、跡取りを残すことは……必要なことであると分かっている。分かってはいるが……。
ため息をついて、執務机で頬杖をつく。
執務机には、母の名を書いた貴賓席の招待状が入った封筒が置かれている。母親に封筒を返され、困惑した後……。そのまま放置していたが。もうトリコロール剣術祭まで時間がない。貴賓席は国王陛下がわざわざ出場する騎士のために用意してくださった席。ここを空席にするのは、国王陛下の御心を無下にすることになる。それは……避けたい。
「クロード団長。今晩、宮殿で舞踏会があります。王太子様も来るため、多くの貴族が出席します。どうですか、そこでご令嬢に声をかけてみては? 団長に声をかけられ、貴賓席の招待状を渡されれば――その令嬢は喜んで招待を受けると思いますよ。もう時間はないですから、これがラストチャンスです」
リンドンが言うことは……その通りだ。もう時間がない。
宮殿の舞踏会……王太子様が出席するなら、確かに多くの貴族が集まる。
舞踏会。
要人警備のため、赴くことは何度もあったが……。
自分が出席するのは……気が向かない。
「クロード団長、やはり僕が女装しましょうか?」
イアンがニコニコと笑顔を向ける。
「いや、必要ない。……今晩のその舞踏会に顔を出そう――」
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次回は明日、12時頃に幕間の物語を公開します♪
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