7:攻略している場合ではないのです(^^;
舞踏会には全然顔を出さない私ですが、アルダン伯爵家で、娘は私一人。勿論、後継ぎである弟は、嫡男としてしっかり教育されています。一方の私に対しては、素敵な伯爵令嬢に育てたかったのでしょう。ダンス、礼儀作法、刺繍、ピアノなどを家庭教師もつけ、幼い頃から教えてくれました。おかげでダンスも、完璧に踊ることが出来ます。
「リラ、すごくダンス上手だな」
ロマンは驚きを隠せません。
「そうかしら? ロマンのリードが、お上手なのだと思いますわ」
私の言葉にロマンの頬が、ぽっと赤くなります。
もし好感度メーターがあれば、ハートが増えた気がしますが。
いえ、今、ロマンを攻略している場合ではないのです。
ひとまず一曲終え、これでもう帰ろうかと思っていたのです。ところが、ロマンとのダンスを終えた直後、突然沢山の男性に囲まれてしまいました。次から次へとダンスを申し込まれ、困惑していると。
「ちょっと、あなたたち、フロアには他にも女子が沢山いるでしょう? 一人にこんなに群がっても、相手をするのは無理。まずはそこのあなた、その次はあなた。それ以外は、他の女子と踊りなさい」
ビックリしました。
悪役令嬢さんが、まさかの助け舟を出してくれています。しかも自身は、王太子様とダンスをしながら、その後も私のダンス相手を調整してくれました。まるで……お母様のよう。
「あの、あく……いえ、フランチェスカ様、ありがとうございます。おかげで混乱せずに、ダンスすることができています。でも私、そろそろ帰らなければならなくて……」
「あら、そうなの。舞踏会はこれからなのに」
くいっと眉毛をあげる悪役令嬢さんを見た瞬間。
怒られるのかと思ったら……。
「ロマン、あなた最初にダンスをしていたわよね? エスコートしてあげなさいよ。馬車まで。それとそこら辺の男子、そんな泣きそうな顔をせず、今日はあきらめなさい。ダンスしたいなら、舞踏会のお誘いを、後日なさいよ」
悪役令嬢さん……!
普段、ヒロインさんといがみ合う姿しか見ていないので、怖いイメージしかありませんでした。でも、今はとってもイイ人に思えます。何度も何度もお礼を言って、私はロマンにエスコートされ、ホールを出ました。
「君、申し訳ないな。リラに渡したいものがあってね。そのエスコートの役目、僕に譲ってもらえないだろうか?」
驚きました。
ロマンにそう声をかけたのは、騎士団長様、いえ、クロード様です。見ると少し髪が乱れ、息も上がっているように思えます。何やら大急ぎでここへ、駆け付けたように見えました。
「!! あ、あなたは剣の騎士団『ドラゴン』の団長、クロード様!」
ロマンは慌てて敬礼し、すぐに私の手をクロード様へと渡します。
あっさりロマンが引き下がることに驚きつつ、この国での、剣の騎士団の人気を、改めて実感しました。
夢キスは乙女ゲーなので、戦争というきな臭いこととは、無縁な設定になっています。それでも舞台となるセボン王国では、過去に大きな大戦を経験していました。そこで剣の騎士団が大活躍したとされています。
今は平和な時代を迎えていますが、剣の騎士団の人気は変わらぬもの。この国の、特に男子にとって、子供の頃からの、憧れの存在です。その剣の騎士団の団長ともなると「一度は会いたいヒーローランキング」がこの世界にあれば、間違いなく1位を獲得するはず。だからこそロマンは敬礼し、その名もしっかり覚えていて、私のことも簡単に、クロード様に譲ったのでしょう。
頬を高揚させたロマンに見送られ、私はクロード様にエスコートされながら、ゆっくり歩き出しました。
「間に合ってよかった。今日の僕は、ついているな。まず、リラ、君に出会えた。そして帰ろうとする君に、もう一度会うことができた」
クロード様は、ロマンと同じぐらい高揚とした顔つきをしているので、驚いてしまいます。私ごときモブキャラと会えたことが、そんなに嬉しいことなのでしょうか? 悪役令嬢さんと私を、勘違いしている?とまで思いましたが……。
「君があの部屋から出て行ってしまった後、君を探すことも考えたが……。それよりも次の約束を取り付けた方がいいと思ってね。急ぎ馬を走らせた」
約束?
なんのことかしらと思いつつ、馬を走らせどこに向かったかを、まずお聞きしてみることにしました。
「あの、クロード様、どちらへ行かれていたのですか?」
「屋敷に戻っていた」
私とあの部屋で会ったのは、舞踏会が始まってすぐのこと。つまりクロード様は、せっかくついたばかりの舞踏会の会場から、まさにとんぼ返りでお屋敷へ戻ったことになります。そこまでする理由は……?
「理由はこれだよ」
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次回は明日、8時頃に「えっと、どうすればいいのでしょうか」を公開します♪