79/82

終幕：エピローグ

クロード様に、プロポーズをされてから一週間。

ようやく落ち着くことが出来ました。

私の意志を確認したクロード様は、その有能さを遺憾なく、私との婚約に向け、発揮くださりました。双方の両親への報告、国王陛下への報告と許可、婚約の手続き、騎士団への報告など、あっという間に終えてくださります。

とりあえず私は、言われるままに正装し、クロード様のお屋敷へ行ったり、王宮へ出向いたり。気づけば指には、婚約指輪が輝き、クラスメイトに驚かれました。

でも、王太子様と悪役令嬢さんのおかげで、冷やかされることも、妬みをうけることもなく、無事学校生活を送ることが出来ています。ロマンはなぜか数日悲しそうにしていて、ジョフリーさんはよかったなと、喜んでくれました。

ヒロインさんは、変らずクラスメイトの男子に囲まれながらも、クレマン様が参加する舞踏会に、足を運んでいるようです。一応、好きな人がいない・婚約者がいない・未婚の男性にアプローチしているため、悪い噂は立たなくなりました。

クレマン様とヒロインさんがうまくいくかは、未知数です。

ただ、王宮へ出向いた際、クレマン様とバッタリ出会いました。それは……バッタリだったのか、クレマン様が私に気づいて、偶然を装い会いに来てくださったのか、それは本人のみぞ知るところです。

私を見たクレマン様は……。あの万華鏡を思わせる、オパールのような瞳を輝かせ、クロード様と私の婚約を喜んでくださいました。そして……。

「デュ・プレシ公爵令嬢は、なかなか面白い生き物だね。見ていて飽きないよ。それにとんでもないほど、ポジティブだ。何があってもめげない。そしてあらゆる物事が、自分を中心に回ってくれていると思っている。あれはなんて言うのだろうね。生まれつきのヒロイン気質とでもいうのかな？　とにかくこれまで会ったことのない人間で、気に入ったよ」

クレマン様は、ヒロインさんのことを、そう評していました。

ヒロインさん……というか、ヒロインというのは、客観的に見ると、そんな風に見えるのかと、ある意味勉強になりました。確かに自分が夢キスをプレイしていて、ヒロインを操作していた時、めげずにポジティブに頑張っていました。もちろん、ヒロインですから。このゲームの世界は、自分を中心に回っていると思っていたわけで……。冷静に考えると、ヒロインというキャラクターは、とんでもなかったのかもしれません。

とはいえ、ヒロインさんがこの世界で迷走しているのには、理由があります。そもそもとして、私が転生したこの夢キスの世界は、王太子様と悪役令嬢さんの、ハッピーエンドルートです。そしてそんな特殊ルートだったからこそ、モブの私も、あのクロード様と婚約できたのだと思います。

……もちろん、今の幸せに至る前には、いろいろなことがありましたが。まさかの一家焼死を経験し、焼死フラグを回避することになりました。モブのためのイベント（？）なのか、悪役令嬢さんの弟リビオ様誘拐未遂事件でも、奮闘することになりました。でもそこで頑張った結果、今はとても幸せです。文句などありません。

「リラ。お待たせ。では行こうか」

「はい。クロード様」

今日は任務を終えたクロード様と、初めてのデートです。

私は大人っぽい黒のドレスを着て。

クロード様は、黒のタキシードのセットアップ。

私が贈ったアスコットタイに、ルビーの薔薇をつけてくださっています。

「今日のリラの黒いドレスは……とても大人っぽい」

「気に入っていただけましたか？」

「僕はとても気に入った。でも僕以外の男性も気に入ったようで、先ほどから多くの男性が、リラのことを見ている。これは落ち着かないな。どうも僕はリラのことを、独占したくなってしまうようだ」

そんなことを言いながら、クロード様は私をエスコートして歩き出します。