77:え? え? え? クロード様?
「リラ、そこのガゼボ(東屋)に行ってみよう」
「あ、はい」
今日は天気も良く、そして丁度夜の帳も降りてきました。月もゆっくりのぼりはじめ、星も見えてきています。ランタンの灯る夜のガゼボ(東屋)で一休み。とてもいいと思います。
「美しいな」
クロード様の言葉に池を見ると……。
池には、見事なまでに月と星が映りこんでいます。
虫の声も聞こえ、自然が作り出す幻想的な景色に、息を飲んでしまいました。
「リラ」
改めて名前を呼ばれ、驚いてクロード様を見上げると。
ランタンの明かりで、クロード様の瞳が輝いており、まるで星の光が宿っているようです。
「君と会った回数は、数えるほどしかないが、今日会う時まで、毎日手紙を交わした。初めて会ったその日から今日まで。リラのことを考えない日はなかった。どうしてなのか。自分でも分からないでいた。でも、ようやく理解したよ。僕がこれまで持ちえなかった感情を、リラと出会うことで知ることになった。それは時に甘美であり、切なく……。焦がれるような感情だ。こんな気持ちを教えてくれたリラに感謝する。そして僕は、もっとこの気持ちを知りたくなっている。幸いなことにこの国では、この気持ちを一つの形として示すことができる」
クロード様が、ガゼボに置かれた椅子に手を伸ばすと。
ビックリしました。
さきほどから、いい香りが漂っていると、気づいていました。
でもそれは、庭園から香っていると思ったのですが……。
初めて見る大きさとボリュームです。
クロード様の手には、美しい真紅の薔薇の花束がありました。
「ちゃんと調べたよ、リラ。これが僕の気持ちだ。108本の赤い薔薇が意味すること、君なら分かるだろう?」
108本の赤い薔薇……それは「結婚してください」――つまりプロポーズです!
「え? え? え? クロード様?」
驚く私にクロード様が、とんでもなく甘い笑みを向けています。
「ちゃんと言った方がいいかな」
え、え、え、え、え……。
「リラ、僕と結婚して欲しい。学校を卒業してから。それまでは婚約者として、僕と付き合って欲しい」
目の前に、薔薇が差し出されています。
未だ、何が起きているのか、理解に至ることが出来ません。
け、結婚……?
学校を卒業してから?
婚約者……?
「わ、私と、ですか?」
「そう、リラと」
「わ、私……?」
「そう、リラだよ」
思わず独り言で「これは、夢ですか?」と呟き、「夢ではない、リラ。僕の心からの気持ちだ。受け取って欲しい」と、促されました。
もう、信じられない気持ちで一杯です。
私は夢キスの背景、ただのモブだったはずなのに。
こんな場面が用意されているなんて……。
今一度、クロード様を見上げると。
サファイアブルーの瞳に、焦れるような熱を感じ、思わず息を飲みます。
「ほ、本当に、私、ですか?」
「本当に、君だ。僕は本気だよ、リラ」
本当なのですね。
夢ではないのですね……。
まさかクロード様が、私をそんな風に見ていたなんて。
もう、これでお会いすることもないと思っていたのに。
じわじわと、喜びと嬉しさと感動が、沸き上がってきました。
震える手を、ゆっくり伸ばします。
こんな幸運、人生で一度しかないはず。
これは絶対につかむべき幸せだと、心の声が叫んでいます。
私は薔薇の花束を、両手でしっかり受け止めました。
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