74:最初で最後のクロード様との夕食会
苦笑したクロード様はこんなことを打ち明けます。
「花に詳しくない……バレてしまったか。毎日送っていた花も、花屋任せだった。何せ花を贈るなんて、怪我をした騎士の見舞いか、家族へ贈るぐらいだったから。ただ、勉強になったよ。花言葉というものがあり、それも考えながら花を贈るのかと、初めて知った」
「そうだったのですね。今日まで毎日お花を贈ってくださり、ありがとうございます」
そこでソテーされたスズキが、運ばれてきました。丁度、スープとパンを食べ終えた、ベストタイミングです。
「これは……青々としてスパイシーな香りがする。初めての香りだ」
「そうですよね。これは……」
顔をあげ、クロード様を直視してしまい、心臓が大きく飛び跳ねます。
やはりクロード様は……素敵です。
思わず視線を逸らしそうになりますが……。よくよく考えると、クロード様とこんな風にお食事できるのは、これが最初で最後でしょう。
クロード様とは、偶然、舞踏会で知り合いました。その時、クロード様はたまたま貴賓席に招待するご婦人が、決まっていませんでした。そこで私が招待を受け、その御礼で夕食に誘っていただけました。でも既に御礼として、宝石をいただいていたのです。毎日お花も。ですからこちらから招待し、今の夕食会があるのです。
でも、これでおしまい。
もう、クロード様からお誘いを受ける理由が、見当たりません。私からお誘いする理由も、見つかりません。
先日の学校のカフェテリアの件を、思い出します。
クロード様に、皆さん滅多に会えないことから、あれだけ大挙して、彼のことを取り囲んだのです。今日、これ以降でクロード様に会うことなど、普通でも難しいこと。モブの私なら、なおのことでしょう。
ですから、逸らしそうになる視線を、ゆっくりクロード様の方へ向けます。
この秀麗なお顔を、目に焼き付けましょう。
「このスズキのソテーに添えられているソースは、我が家のオリジナルなのです。私がコックに頼み、作っていただいたもので、ユズコショウと言います。柚子と青唐辛子と塩で作ったものです。ピリッとした辛さと鼻にぬける風味、そして香りが楽しめるソースで、スズキにもよく合います」
前世で、よく肉料理に使っていた柚子胡椒。この世界でも食べたかった私は、コックに頼んで作っていただき、料理に取り入れてもらえるようにしました。家族もみんな、気に入ってくれています。
「リラが思いついた、調味料ということか?」
「私が思いついたわけではないのですが……。何かの本で、見かけまして」
「そうか。僕は初めて目にして……というか、初めてふれるこの香り……。いただいてみよう」
そう言ったクロード様は、スズキの白身を柚子胡椒ソースにつけ、まずは香りを楽しみ、お口へと運ばれます。ゆっくり噛みしめたクロード様は……。
「これは……! なんというか、クセになる。こってりしたソテーのバターが、このソースで、さっぱりする。最後に舌に残るこのピリッとした感じも、たまらないな」
クロード様は、美味しいと喜んでくださります。
その後に出てきたお口直しのシャーベットも食べ終え……。
でも、まだ次の肉料理は出てきません。
牛フィレ肉のポワレが出されるまでの時間。
ここは、少し長めに時間をとってもらうよう、頼んでありました。なぜならこの時間を使い、悪役令嬢さん達と買いに行ったアスコットタイを、クロード様に渡すつもりだったからです。
クロード様に、事前にバレないようにするために。
誰も座らないのに用意しておいた椅子に、こっそり置いておいた包みを、静かに取り出します。
「クロード様」
私の呼びかけに、レモン水を飲んでいたクロード様がグラスをおき、こちらをご覧になります。膝の上にのせていた包みを、クロード様に差し出しました。
「素敵な宝石をいただいた御礼です」
「……! リラ、そんなわざわざ……」
クロード様が驚いて、目を大きく見開きました。
そんな表情のクロード様も、大変素敵に思えてしまいます。
「いただいた宝石におよぶ物ではありませんが、どうかお受け取りください」
「リラが僕のことを思い、選んでくれた。それだけで十分だ。嬉しく思う。ありがとう」
サファイアブルーの瞳が、喜びで煌めいています。
笑顔で「開けてもいいかな?」と尋ねるクロード様に頷くと、早速包みを開け、箱を開くと……。
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次回は明日、8時頃に「大切にしてくださっているのですねo(⁎˃ᴗ˂⁎)o」を公開します♪
【重ねてお詫びします】
今朝は7時台の更新が遅くなりまして、申し訳ありませんでした。きちんとアラートをセットしていたのですが、別作品がその時間に更新があり、そちらの更新確認をしているうちに失念してしいました。以後、同じようなミスをしないよう、注意喚起を行うようにします。紙に更新時間を書き、壁にはるなどし、再発防止に努めます。楽しみにお待ちいただいていた読者様、本当にごめんなさい。