73:直視するのは、む、無理です!
挙動不審に思えるクロード様に体調が悪いのかと尋ねると……。
「いや、そんなことはない。至って健康だ。今日は午後から休みをとっているし、万全の体調だ」
そう答えたクロード様は、再びレモン水を口に運びます。
前菜が運ばれ、アミューズのお皿が下げられ、クロード様のグラスには、レモン水が注がれました。クロード様は、グラスを満たしていくレモン水をじっと見ていましたが、ハッとした表情になり、その視線を私に向けます。
「お体の調子は良いとのことですが……。その、何か気持ち的に休まらないことが、ありますか?」
私が尋ねた瞬間、クロード様は「くっ……」と短く叫び、片手で顔を抑え、俯かれてしまいます。これは……間違いなく、何か気持ち的に問題がありそうですね。
「クロード様、もしやテラスより、室内での食事がよかったですか?」
「いや、リラ、ここで問題ないよ。ここは幻想的で、とても素晴らしい場所だ」
顔から手をはなしたクロード様は、咳払いをして、前菜を口に運びます。
その視線は前菜に向けられ、そして落ち着いた様子で、フォークとナイフを使われていました。そうやってお食事をされる姿を見ると、先ほどまでの挙動不審な様子が、嘘のように思えてきます。
きっと私の気のせいだったのでしょう。
静かに二人とも前菜を食べ終え、そこに焼き立てのパンとコンソメスープが運ばれてきました。このコンソメスープには、沢山の刻んだ野菜とベーコンが入っており、パンともよく合うのです。
「クロード様、このスープは、焼き立てのパンにもよく合います。ぜひスープとパンを一緒に、楽しんでくださいませ」
私の言葉に、ゆっくりとクロード様が、視線をこちらに向けました。サファイアブルーの瞳が、ランタンの柔らかい光を受け、美しく輝いています。頬を赤く染め、でも少年のようなあの笑顔でこちらを見るクロード様は……。やはり直視するのは、む、無理です!
慌ててパンをとります。
「……リラ、先ほどはすまなかった。ここに着席してからの30分は……。自分で言うのもなんだが、挙動不審だったと思う。その、想定はしていた。招待された夕食会だ。僕を招いてくれたリラが、美しく着飾ることは、分かり切っていたのに……。でも今日のそのドレス、髪型、化粧、そして私が贈った宝石。すべてが完璧に調和していて、言葉を……失ってしまった。リラのことをまともに見ることができずにいた。でも今は、ようやく落ち着いたよ」
「そ、そうだったのですね。そこまでお褒めいただけると、とても光栄です」
ぎこちなく野菜スープを口に運びながら、クロード様の方を見ずに答えます。
クロード様が挙動不審だった理由。
それはよく理解できました。クロード様は、女性慣れてしていないのです。例え私如きであっても、きちんと着飾れば、女性として見てもらえる。そしてこの場に着飾った女性は、私しかいなかったので、目のやり場に困ったということですね。もしここが舞踏会なら、他のもっと綺麗な令嬢に対し、挙動不審になっていたことでしょう。
「そしてこのスープだけど、リラが言う通り、焼き立てのパンに合う。とても美味しい」
「それはよかったです」
笑顔だったので。
笑って目が細い状態だったので、顔をあげ、クロード様の方を見ることが出来ました。見ると言っても、目を細めていたので、ほとんどお姿を見ることはなかったのですが。それでもうっすら、クロード様のお姿を捉えてしまい、慌てて視線をレモン水のはいったグラスに移動させます。
「リラの美しい髪を飾るその白い花、名はなんという?」
「あ、はい。私の髪の美しい白い花ですよね。これはジャスミンです」
「リラの美しい髪を飾る花は、ジャスミンというのか」
「はい。白い美しい花の名は、ジャスミンです。……クロード様は、お花にあまり詳しくないのですね?」
スープとパンを食べ進めながら、クロード様の方を見ずに尋ねると。
クロード様は苦笑し、「美しいのは、花の方ではないのに」という囁き声が聞こえてきました。「?」と思いましたが、クロード様は笑いながら、話し始めました。
【お詫び】
7時台の更新がとても遅い時間になってしまいました。
お待ちいただいていた読者様、本当に、本当にごめんなさい。
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このあともう1話公開します!
21時台に公開します。
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