68:驚きの話を聞くことになりました
「え、クレマン様がそんなことを……?」
午後の授業が終わり、帰ろうとする私を呼び止めたのは、王太子様でした。そして悪役令嬢さんと共に、自分の馬車に乗って帰ることを提案されました。
突然のお誘いですが、王太子様が屋敷まで送ってくださると言うのを、お断りなんてできません。そもそもお断りする理由も浮かびません。お父様は、まだお戻りではないでしょう。先触れが行くとしても、ほぼ時間差なく、王太子様の馬車が屋敷に向かうことになると思います。お母様はきっと慌てられるかと思いますが……。仕方ないでしょう。
こうしてあの白に黄金の装飾が施された馬車に乗り、警護の騎士に先導されながら、屋敷まで送っていただく道中。王太子様から、驚きの話を聞くことになったのです。
昨日、学校が終わった後。
王太子様と悪役令嬢さんは王宮に戻り、そこで二人仲良く、宿題をされていたそうです。夕食の時間も近づき、悪役令嬢さんは屋敷へ帰ることになりました。その見送りのため、エントランスへ向かっていると。
ほろ酔いだったのでしょうか。頬がほんのり桜色のクレマン様と、バッタリあったそうです。クレマン様は特別顧問という立場から、王宮に一室を与えられ、そこを住まいとされていました。ですからこのような形でクレマン様と会うことは、珍しいことではありません。ただ、いつもは挨拶程度。でも今回は珍しく、挨拶以外の言葉をかけられたそうなのです。
「ライラックの美しい女性に、二人とも最近、助けられたのでは? 彼女は身を挺して、二人が大切と思う者を守ってくれた。それだけではない。二人が幸せになれるよう、邪魔をする者に、これ以上二人の邪魔をしないよう、教示を与えている。そのおかげで邪魔者は、君たちのそばから消えた。何を言っているか、分かるだろう?」
本来当事者でなければ、知りえないことを知っている――エルフであるクレマン様には、こんなことが多々あります。ですから王太子様も悪役令嬢さんも、驚くことはありませんでした。クレマン様が、公にはせずに処理した、リビオ様の誘拐未遂事件のことを知っていることに。
むしろ、その後半が何を指すのかが、分かりませんでした。でもヒロインさんが突然「好きな人や付き合っている人、婚約者がいる人には近づかないようにする」という行動をとり始めていたので、そのことではないかと思い至ったそうです。
ライラックの美しい女性……と言われた時は、やはり「?」でしたが、その後の身を挺して守ったという話から、すぐに私と気づけたとのこと。
そしてこんなことを、王太子様や悪役令嬢さんに話したクレマン様は、何をしたかったのか。その答えは次の言葉で明確になります。
「君たち二人を助けた彼女が今、とても悲しい気持ちになっている。だから明日、昼休みに、クロードに忘れ物を届けさせるといい。そしてクロードと彼女が、二人きりで話せるようにしてあげるといい」
なぜそうする必要があるのか。それをクレマン様に聞くのは、無意味なのだそうです。クレマン様は、予見や啓示を与えてくれます。その一方で、理由を細かく説明しないことが多いためです。ただ、その予見や啓示に従えば、平穏な日々を送ることが出来ました。もしそれを無視すれば、不幸な出来事が起こると言われています。そこで王太子様は、地質学に使う参考書を忘れたことにして、クロード様に学校へ届けさせたというのです。
これにはもう、驚くしかありません。
クレマン様は、言葉一つで王太子様を動かし、そしてクロード様と私が話をする場を作ってくださったのですから。そう思う一方で……。
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次回は明日、8時頃に「何か大切なことに気づいていない(^^?」を公開します♪