67:つい笑ってしまったのです(*^-^)
これにはクロード様も、困ってしまいます。気づかれないよう、そっと渡しますからと言っても「でも、もし万一にも見られていたら」と畳みかけられ、ため息をつくしかありません。
するとヒロインさんは、申し訳なさそうに「せめて雨が小ぶりになるまででいいので、カフェに一緒に入っていただければ」と提案したそうです。
本当は断りたかったのですが、周囲を見渡しても、自分の代わりにヒロインさんに付き合ってくれそうな方は……見当たりません。もし代わりが見つかれば、その人に金貨を渡し、立ち去るつもりだったのですが……。
ここで「それは無理です」とヒロインさんをおいていくことは、それこそ剣の騎士団の団長としての名誉に関わります。クロード様の騎士道精神にも反すること。ですからヒロインさんに付き合い、カフェに入ることにしたそうです。
「席に着くと、彼女はずっと話しっぱなしだった。自分の名さえ名乗らないまま、得意のダンスはなんであるとか、好きな花はなんであるとか、見たいオペラはなんであるとか……。自分のことを一方的に話すのだが、それはまるで、だからその花を贈ってくれ、そのオペラに連れて行ってくれと言われているようで、正直返答に困った。挙句、ようやく名乗ったと思ったら……。あの、リュシアン王太子様の婚約者の弟をさらうよう指示した、デュ・プレシ公爵令嬢だと分かった。その時はもう、なんの悪い冗談かと思ったよ」
ウンザリという顔のクロード様には大変申し訳ないのですが、思わず笑ってしまいました。
クロード様の話しぶりから、その時の様子が手に取るように分かり、ヒロインさんの身振り手振りも浮かんでしまいます。そして困惑するクロード様の様子も。そこでつい、笑ってしまったのです。
「良かった……。ようやくリラの心からの笑顔を見ることが出来た。今日、顔を合わせた瞬間から、ずっと元気がないように見えていたから。心配していたよ」
「え、そうでしたか……?」
「一見すると、いつも通りだ。でも、何か引っかかっている。そんな風に見えた」
「……そうでしたか。自分では気づいていなかったのですが、そうですね。無意識のうちに、気になってしまっていたのかもしれません。アメリさんとクロード様が、なぜカフェでお茶をしていたのかと」
クロード様は、カップに残る紅茶を飲み干し、そのサファイアのような瞳を真っ直ぐに私に向け、何か言いかけます。でも一度口を閉じ、ふうっと息をはき、再び口を開くと……。
「明日の夕食会で、リラに大切なことを伝えたいと思っている。だから……その、デュ・プレシ公爵令嬢のことなど、気にしないでほしい。彼女以外の女性のことも」
大切なこと……?
ヒロインさんや他の女性のことは、気にしないでほしい……。
クロード様の意図はよく分かりません。でも明日の夕食会で、お話するつもりであるならば。ここで詮索する必要はないでしょう。
「分かりました。では明日の夕食会で、お聞かせください」
私の言葉を聞いた瞬間、クロード様の頬が、ぽっと赤くなります。
どうしたのかと思ったその時、ベルの音が鳴り響きました。
「リラ、昼休みを潰してしまい、申し訳なかった。これは片付けておくから。教室へ戻るといい」
「え、でも」
「君はまだ学生だ。学生の本分は勉強だろう。さあ、行って、リラ」
クロード様が、厨房の裏口のドアを開けてくださいます。
私は御礼言い、教室へと向かうことにしました。
このあともう1話公開します!
18時台に公開します。
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いつもと違う時間です