66:「しまった!」と思い……
クロード様にしつこく堂々とアピールする女生徒。
それはまさか……。
「何よりもその女生徒は、先日とんでもない騒動を巻き起こした張本人だ。喉元過ぎれば熱さを忘れるなのか……。まるで反省の色が見られない。それに王太子様に近づくために、あんなことをしておきながら、そんなことなかったかのように、振舞うのは……」
ああ、やっぱり。
ヒロインさんのことです。
てっきりクロード様とヒロインさんは、仲良くされているのかと思ったのですが……。そういうわけではないのでしょうか。
「あの女生徒……アメリ・デュ・プレシと話すことで、改めてリラの素晴らしさに気づけたよ。リラは時々鋭い分析もするが、言葉に裏はなく、一緒にいて安心できる」
「でもクロード様は昨日、アメリさんとカフェに」
そこで私は「しまった!」と思い、口をつぐみます。
偶然、お見かけしただけなのですから、知らぬふりをするつもりでいたのに。
「……リラ、もしかして君は……。そうか、リラも昨日、街へ行っていたのだね。……! ドレスの仕立屋……。あの馬車、そうだったのか。あの馬車はリラだったのか! 紋章を出していないから、気づかなかった。でもそうだろう。警護の者をつけていない時、馬車に紋章を出せば、強盗に狙われる可能性もある。だからか。ということはリラ、もしかして見ていたのか?」
輝くサファイアのような瞳を向けられ、息を飲みます。
本当に宝石のように美しい目です。
ヒロインさんといるところを見ていたのか……。はい、見ていました。アメリさんと二人でカフェへ入って行くところを。そう答えたいのですが、それではまるで、盗み見していたように思われてしまうのでは……? そう思うと、言葉を返すことができません。
「……あの馬車がリラのものと分かっていたら、仕立屋に足を運んだのに。そうすればリラと、有意義な時間を過ごせただろう。まったく、あの時の一時間は本当に、苦痛以外の何ものでもなかったよ」
私は答えませんでしたが、クロード様は、私が見ていたと判断したようです。静かに話し始めました。昨日、ヒロインさんと何があったのかを。
クロード様は任務が終わり、お買い物のため、街へ来ていました。馬車ではなく、馬で来ていたので、突然の雨に驚き、雨宿りをすることになります。そう、私がいる仕立屋の向かいのカフェのひさしで。
こんなところで、足止めを食うつもりはなかった。このまま馬に乗って屋敷まで帰る――そう思いながら、懐中時計を取り出し、時間を確認したところ。突然、声をかけられました。ヒロインさんに。
「夕立ですかね。困りますよね、突然の雨は」――そう話しかけてきたヒロインさんの第一印象は、別に悪い物ではありませんでした。しかも制服を着ていることから、学生だと分かります。傘もなく、急な雨に困っている女学生。そのようにしか見えませんでした。
ところがヒロインさんは、クロード様のことを知っている、トリコロール剣術祭での活躍ぶりを知っていると、滔々と語りだします。その瞬間、自分が誰であるか知った上で近づいてきたと分かり、少し引き気味になりました。とはいえ、自分を称賛してくれる女学生。無下にはできません。適度に相槌を打ち、この場から去ろうとしたのですが……。
「雨はまだやみそうにありません。そしてここは丁度カフェです。休憩をしたいのですが……」と、ヒロインさんは、上目遣いでクロード様を見ました。客観的に見ても、それはその年齢相応の可愛らしい姿ではありますが、それだけだったそうです。その上目遣いを見て、胸が高鳴ることはなかったと。
クロード様は、「自分は馬で帰ることにするので、どうぞカフェで雨宿りをしてください」そう告げ、その場から去ろうしたのですが……。ヒロインさんは、恥ずかしそうにこう言ったそうです。「あいにく、学校からの帰り道、持ち合わせがないのです」と。
そんなことを言われ、騎士であるクロード様が、ほうっておけるはずがありません。返してもらうつもりなどなく、金貨を渡そうとしました。するとヒロインさんは……。「これでも私は、公爵家の令嬢です。その私がお金を受け取る姿など、誰かに見られては困ります」そう言って、瞳を伏せたそうです。
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