62:悟りを開きました‥・*・‥
金曜日のお昼休み。
カフェテリアで悪役令嬢さん、王太子様、ロマン、ジョフリーと昼食をとっていました。
朝、目覚めると、昨晩のどんよりした気分も幾分落ち着いています。家族で楽しく会話しながら朝食をとっていると……。すっかり元気になっています。
ドラマティックな出来事とは無縁のまま、前世での生を終え、この夢キスの世界に転生しました。しかも私にピッタリな、モブという立場で。でも前世と同じく引きこもりをしていたら、まさかの焼死。これには驚きましたが、そのフラグも回避できたようです。リビオ様の誘拐未遂事件というイベントがあったものの、二度目のモブ人生は、大きな問題もなく、過ごせていると思います。
そう、大きな問題はありません。
クロード様とヒロインさんの間で何かあっても、それは当然のこと。攻略対象とヒロインさんという関係なのですから。何か起きても、おかしくありません。そして何か起きても、それはあくまで攻略対象とヒロインさんの間で起きることであり、モブである私には、関係のないこと。気にしても、仕方のないことです。
その悟りが開けたことで、モヤモヤした気分も晴れました。
ですからこの時の昼食も、いつも通りです。五人で楽しくおしゃべりしながら、過ごしていたのですが……。
突然、カフェテリアの入口が、騒がしくなります。
「何事だ?」
ロマンが席から立ち上がりました。
カフェテリアの端の席にいるので、入口で起きていることは、遥か遠くの出来事に思えます。立ち上がっただけでは、様子を探れないと感じたのでしょう。ロマンは椅子に足からのっかり、入口の方を眺めます。
「もう、ロマンったら。お行儀が悪いわよ。教師に見つかったら、叱られますわよ」
悪役令嬢さんが、紅茶のカップを優雅に持ちながら、ロマンをたしなめると。
「これは驚きだ! 剣の騎士団の団長クロード様が見える!」
ロマンの頬が、高揚しています。
するとジョフリーさんまで、椅子から立ち上がりました。そして窺う様に、入口の方を見ています。
「すごいな。女生徒に囲まれ、身動きがとれない状態だ」
ロマンが椅子から降りることなく、その様子を眺めています。トリコロール剣術祭から10日ほど経ちましたが、熱はまだ収まっていません。何よりクロード様は、舞踏会に頻繁に顔を出すわけではないのです。女学生がクロード様に接する機会なんて、皆無。滅多に会えないクロード様が、学校のカフェテリアに現れたとなれば……。女生徒がざわつくのも、当然でしょう。
「おいおい、マジかよ」
「なんだよ、ロマン!?」
ロマンの呟きに、ついに我慢できなくなったのでしょうか。ジョフリーさんまで椅子にのり、入口の方に視線を向けました。気づくと、他の生徒も椅子にのっかり、クロード様を見ようとしています。中にはテーブルにのっている生徒まで見受けられました。
「まったく。これではクロードは動物園の動物ね。そんなにクロードが珍しいのかしら」
悪役令嬢さんは、クロード様には背を向けた状態のまま、落ち着いて紅茶を口に運んでいます。その隣に座る王太子様も、クロード様に背を向けたまま、同じく紅茶を口に運んでいました。
「フランチェスカ。クロードは、わたし達にとっては、当たり前に見かける存在だ。でも普通に暮らしていては、すれ違うこともない。だから皆が大騒ぎするのも、無理はない。何しろトリコロール剣術祭の熱は、まだ収まっていないのだから」
王太子様の言う通りです。
お二人には見慣れているクロード様でも、多くの人にとっては、遠くで眺めるだけの存在なのですから……。
「ロマン、あれはつまり、あのクロード様が、アメリに会いに来たということか!?」
お読みいただき、ありがとうございます!
次回は明日、8時頃に「笑顔の二人の姿が脳裏に浮かぶρ(・ω・、」を公開します♪