60:クロード様もまた、夢キスの攻略対象
「リラ」
前かがみになったクレマン様が、そうっと伸ばした手で、私の頬に触れています。
驚いて顔を上げると、クレマン様の瞳はとても辛そうでした。
「とても悲しいオーラを感じる。一体、僕に会う前に、何を見たのだい?」
真摯な眼差しです。
心から私を心配してくれていると分かりました。
「……クレマン様が直前までご一緒されていたアメリさんと、クロード様……剣の騎士団の団長様が、カフェで待ち合わせされているのを見ました」
私の頬から手をはなしたクレマン様は、その長い脚を組み、左ひじを膝に乗せ、頬杖をつきました。
「アメリと……クロード。剣の騎士団の団長。ああ、あの堅物か」
堅物!?
クロード様が堅物!?
確かにそうかもしれませんが……。
クレマン様がくすりと笑いました。
「堅物というのは、悪い意味で使ったわけではないよ、リラ。彼は驚くほど清らかだ。その崇高さは、エルフのよう。エルフのようだ、といっても、僕のようなエルフを想像しないでくれ。本来エルフというのは気高く、神にも等しい精神を持つ者だから。クロードは……だから僕とは真逆だ。そう簡単に、女性に手を出したりはしない」
クレマン様の言葉に、思わず自分の手を、ぎゅっと握りしめてしまいます。
そう簡単に手を出さないクロード様が、ヒロインさんに会っていたということは……そういうことなのでしょう。
忘れそうになっていましたが、クロード様もまた、夢キスの攻略対象。ヒロインさんは、クラスメイトだったロマンとジョフリーさんの攻略が、難しい状況です。もしクロード様の攻略に向かっているとしたら……それは仕方のないこと。
何より、クロード様は公爵家の嫡男で、ヒロインさんが望む王族を祖先に持つ方です。さらに未婚で、婚約者もいないのですから……。
「リラ」
クレマン様の声に、顔をあげます。
「君は……君もまた、堅物のようだね」
わ、私も堅物!?
でも……堅物は悪くない意味と、さっき聞いたばかりで……。
「クロードとアメリは釣り合わない」
「!?」
「釣り合わないというのは、身分が違う、ということではないよ。クロードは堅物だ。一方のアメリは……堅物ではなく、ただの頑固だ。アメリは何か自分の考えに、固執してしまっている。それを変えることができないようだ。でもまあ、僕なら変えられるだろう。リラ、安心するといい。アメリのことは僕に任せてくれ。僕はね、変り者のエルフだ。だから普通の人間が手をこまねくような相手でも、問題なく扱えるからね」
クレマン様はそう言うとウィンクして、さらに手を伸ばすと、私の手を掴みました。
「……本当は、僕だってリラがいい。君は……この世界にいる人間たちとは、何かが違う。そこにどうしても惹かれてしまうから。でもね、これは僕の我がままだ。リラ、君を困らせたくない。ただ、もし君が心から涙を流すことがあれば。その時は僕の出番だ。リラの悲しみは、僕が癒す」
突然のクレマン様の言葉に、ドキドキしていると。
馬車が自然と止まりました。
何も合図を出していないのに。
「リラ、送ってくれて、ありがとう。僕はここから少し散歩しながら帰るよ。なんだか素敵な貴婦人の気配も感じるしね」
「……! クレマン様の力で、馬車を止めたのですか!?」
「僕の力……。まあ、僕としてはここで降りたいと思ったからね。馬にここでいいよって、合図を送った感じかな」
なんてことはないという感じで、クレマン様は答えていますが……。
さすがエルフです。
不思議なことを、当たり前のように出来てしまいます。
「じゃあね、リラ」
クレマン様は微笑むと、優雅に馬車を降りて行きました。
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