5:私がお相手するのは無理です(@ @;)
嘘はダメ……。
「!!」
そうでした。
エルフであるクレマン様は、人の嘘を見抜くことが出来てしまうのです。ですから恋の駆け引きは無駄で、攻略するには、とにかく好きだと……。違いました。クレマン様を今、攻略する気など、さらさらありません。私はただのモブの転生者。焼死フラグを回避し、優しい家族と、静かに生きていきたいだけなのです。
「……はい。申し訳ありません。確かに嘘をつきました。私はこの舞踏会に一人で来ています。ですからホールで待つ人は、誰もいません」
「……なんとも素直な子だね。僕はさっき、いいところまでいった女性に、逃げられてしまった。昂る気持ちを静めるのに、君を利用できないかと考えたけど……。君みたいな子は、そんな風に利用しては、罰があたってしまう」
クレマン様はそう言うと「まあ、座ってよ」と私をベンチに座らせ、その隣に自身も腰を下ろします。さらに脚を組んだのですが……。長いです。脚がとっても長いです。
庭園の端っこの目立たないベンチでしたが、丁度昇り始めた月明りに照らされ、クレマン様のお姿も、よく見えるようなりました。容姿は知っての通りで美しく、そして今日着ていらっしゃる衣装も、とても素敵です。
白シャツにエメラルドグリーンのクラヴァット、アイスグリーンのジレ、同色のズボンに焦げ茶色の革のロングブーツ、そしてアイスグリーンのテールコート。シャーベットカラーのコーディネートが、とても美しく感じます。
「君には何やら不思議な星周りを感じるよ。まるで僕と同じだね。異世界からやってきたようだ」
!!
この言葉には驚いてしまいます。もしや私が異世界転生者だと、気づいたのでしょうか……?
「僕は長生きをしているからね。子供だった頃の僕からすると、今のこの世界は、見知らぬ世界も同然だ。ちょっと前までは、みんな裸に近い姿をしていたのに。ドレスなんて脱がすのが大変で、困ってしまうよ」
困ってしまうのは、クレマン様の発言です!
そう思いましたが、口に出すことはできません。
それにしても本当に、クレマン様は女好きです。
「あまりにも長く生きると、自分の存在が分からなくなることがある。昔は、僕と同じ、エルフという種族も沢山いた。子供の頃からの僕を、知っていてくれる人がいた。でも、今、エルフの数はぐっと減ってしまった。だから時々分からなくなる。僕は何者なのだろう? 本当にまだ生きているのか? こんなに長く生きるものなのか? 本当はゴーストなのでは? ってね」
「長生きすると、そんなことを感じるのですね。でも大丈夫ですよ。あなたはエルフで、名前はクレマン・カラッソで、間違いありません」
するとクレマン様は「参ったな」と肩をすくめ、でも楽しそうに笑います。
「君は僕の気持ちが、手に取るように分かるようだ。本当に不思議な子。僕はね、自分が何者であるか実感するために、女性を抱くんだよ。そこで果てた瞬間に、自分の“生”を実感できるから」
困ります!
そっちの方向のお話は。
やっぱり私には、クレマン様のお相手は無理です。
立ち上がろうとすると、またもや腕を掴まれてしまいます。
「待って。君は……名前は……リラ、か?」
「どうして分かるのですか!?」
「君を見た瞬間、淡い紫色のライラックの花が、イメージされた。ああ、この子は美しい花の名を持つ子だと、すぐに分かった。でもライラックなんて名前、あまり聞かない。そうなるとライラックの別名、リラではないかと予想したわけだ」
クレマン様の推理に驚き、立ち上がる気持ちが薄れます。
「クレマン様の予想は正解です。私はアルダン伯爵家の長女リラと申します」
「伯爵家のご令嬢か。どうりで品がある。それにしても、なぜ無理をしてここにいる?」
そんなことまで分かってしまうの……?
そう思い、息を飲んでしまうと。
「リラ、君はとても美しい。ホールにいれば、沢山の男性が、君と踊りたがるだろう。当然、僕もね。君に目をつけていた、最初から。声をかけようと思っていた。それなのに一曲目が始まると、君はすぐにホールを出て行ってしまった。俄然、僕のやる気はなくなった。だからまあ、いろいろと……。ところが再び君を見つけたと思ったら。まるで僕に会うためにここへきてくれたのかと思ったが、違うだろう? こんな目立たない場所のベンチを選ぶなんて。舞踏会に来る女子なんて、お婿さん探しだろう? でも君は違う。本当はここに来たくて来たわけではない。正解、かな?」
正解、かな?と首を傾げるクレマン様は、なんだか愛嬌があり、可愛らしく感じてしまいます。
「エルフであるクレマン様は、すべてお見通しかと思いましたが。そういうわけではないのですね」
私の言葉を聞いたクレマン様は、快活に笑います。
エルフであるクレマン様の容姿はとても美しく、ノーブルなイメージ。でも実際に話してみると……。外見の雰囲気とは違い、とても砕けており、話しやすいのです。でもきっとそれで多くの女性が、クレマン様の虜になってしまうのでしょうね。
その時です。
ヒロインさんが、テラスに出てきました。
昨日に続き来訪いただけた方、ありがとうございます!
この投稿を新たに見つけていただけた方も、ありがとうございます!!
このあと12時台に、もう1話公開します!