58:心臓が止まるかと思いました。
ふと窓の外を見ると。
珍しく夕立で、雨が降ってきました。
大粒の雨が、ぼた、ぼた、という感じで降ってきています。さっきまで青空だったのに、鈍色の雲が、広がっていました。
「リラ様、通り雨だと思いますが、傘はお持ちですか? お持ちでなければご用意しますよ。当店にはひさしがあります。ただ、馬車の中にドレスをのせるまで、濡れるのが心配でしたら。晴れている時に、当店からドレスをお届けしますが」
仕立屋の店主さんが、気を遣って声をかけてくださいます。
「傘は持ち合わせがないので、このまま雨宿りさせていただいてもいいですか? 夕立ちだと思うので、少し待たせていただき、止めばそのままドレスを持ち帰ります。もし止みそうになければ、晴れている時に、届けていただいてもいいですか?」
店主さんは雨宿りを快諾し、さらに紅茶とクッキーも出してくださいました。私はその紅茶を飲みつつ、クッキーをいただき、窓の外を眺めていたのですが……。
驚きました。
通りを挟んだ向かいのお店のひさしの下に、クロード様がいらしたのです。隊服にマントというお姿なので、もしや今日の任務が終わり、お帰りになるところなのでしょうか。
クロード様は懐中時計を取り出し、時間を確認され、そして空を見上げています。馬車ではなく、馬でいらしたのでしょう。急に雨が降ってきたので、雨宿りされているように思えます。もしそうならば、私の馬車で……。
ヒロインさん!?
雨を避けるように、制服姿のヒロインさんが、クロード様のいるひさしの方へと駆けていきました。ヒロインさんは、クロード様に、何やら話しかけています。二人は知り合いなのでしょうか……? 先日の、リビオ様の誘拐未遂事件があります。その件で、二人は顔を合わせたのでしょうか……?
ヒロインさんは笑顔で、身振り手振りでクロード様に話しかけ、クロード様は……。困ったような、でも一応笑顔にもなり、受け答えをしています。
え……。
クロード様が、お店の扉を開けました。よく見るとそこは、カフェです。ヒロインさんはそのままお店に入り、クロード様もその後に続き、お店へと入っていかれました。
!!
心臓が止まるかと思いました。
窓の目の前に現れたのは……エルフのクレマン様です。
◇
「嬉しいね。こんな形でリラと再会できるのは。トリコロール剣術祭の時は、すぐ後ろにいると分かっていた。でもアメリがいたからね。アメリはどうも自分と一緒にいる時に、僕が他の女性に声をかけると機嫌が悪くなる。だからリラに話しかけることも出来なかった」
私の馬車に乗り込んだエルフのクレマン様は。サラサラの長いプラチナブロンドを揺らし、万華鏡のように色が変わるオパールのような瞳で私を見て、微笑んでいます。
クレマン様は。
ヒロインさんに誘われ、街へやってきていました。
なんでもヒロインさんは、お兄様の誕生日プレゼントで、ステッキを贈りたいとのこと。でも男性がどのようなステッキを好むのか。ヒロインさんは分からなかったそうです。そこでステッキ選びに付き合って欲しいと、クレマン様は頼まれました。そして今日、待ち合わせをして、街へやって来たそうなのです。
ヒロインさんが、クレマン様にこんな相談ができるようになっていたのは、あの舞踏会での出会いがきっかけでした。私がヒロインさんとクレマン様の出会いイベントのお膳立てをしたわけですが……。
放課後、ヒロインさんはクレマン様を馬車で迎えに行き、ステッキの専門店へと向かいました。ステッキはクレマン様のアドバイスで、無事購入することができたそうです。ところがお店を出ると、雨が降っていました。するとヒロインさんは「この後、知り合いとの待ち合わせがあるので、ここで別れたい」と、お店の外に出た瞬間に言われたそうなのです。
ヒロインさんの馬車で、クレマン様は街まで来ていました。しかもヒロインさんからお誘いし、買い物につきあわせていたのです。そして御礼にお茶をご馳走することもなく、雨が降る中、クレマン様を放置されました。これは……とても失礼なことだと思います。
ヒロインさんとクレマン様が知り会うきっかけを、私は作ったわけですが。こんな失礼なことをすると分かっていたら、お膳立てなどしなかったのにと大後悔です。
でもクレマン様は……。
このあともう1話公開します!
15時台に公開します。
┬┬┬┬
いつもと違う時間です
ブックマーク登録いただいた読者様。
いいね!をしてくださった読者様。
応援、ありがとうございますo(⁎˃ᴗ˂⁎)o