51:勇気を持ちましょうo("へ")o
リビオ様誘拐未遂事件から、今日で5日目なのですが。
とてもげっそりして覇気のなくなったヒロインさんが、そこにいます。疲れ切った顔で手を洗っていました。
夢キスのヒロインさんといえば、アイドルみたいに明るく、背中に星マークを背負っていそうなキャラクターなのに、なんだか別人です。これはクラス替えになり、王太子様から完全に相手にされなくなったことが、よっぽどこたえているのでしょう。
その姿は、一声かけたくなるものです。とはいえ私はリビオ様誘拐の邪魔をしたわけで、恨まれている可能性もあります。怖くて声をかけにくいと思ったので、視線を伏せ、さりげなく、でも速やかに手を洗い、その場を離れようとしました。
用意されていたハンドタオルを一枚とり、手を拭きながら、洗面台の端に立つヒロインさんをチラリと見ると。とっくに手を洗い終えているのに、俯いて動く気配がありません。
大丈夫……なのでしょうか……?
以前の私だったら……。絶対に声をかけません。
でも。
前世と同じように、引きこもって読書三昧をしたら、焼け死にました。そこで前世の自分だったら行かないような舞踏会に足を運び、運命が変わった気がします。今ここでヒロインさんを放置したら……。何か起こるかもしれません。勇気を持って声をかけることにしました。
「あの……」
ヒロインさんが顔を上げました。
トリコロール剣術祭の時の勢いはどこへやら。
虚ろな目をこちらへ向けます。
その様子を見るに、私が誰であるか、まったく気づいていないようです。
「……何ですか?」
私を見る目は、完全に見知らぬ人へ向ける視線。
私が誰であるか、分かっていなことを確信しました。
「私、少しばかり不思議な力があるのです。祖先にエルフの血が混じっていたようで」
思いつきですが、エルフも獣人族も存在しているので、ヒロインさんは取り立てて驚くことなく、私の言葉を聞いています。
「あなたには、とても不穏なオーラを感じます」
「不穏なオーラ……?」
「はい。その不穏なオーラのせいで、あなたには、不幸な出来事が、いくつもふりかかっていると思います。その状況を打破するには、二つのことを心掛ける必要があります」
鏡の方に体を向けていたヒロインさんが、私の方へ全身を向けました。そして真剣な顔で尋ねます。
「何を心掛ければいいのですか?」
「まず、誰かのものを欲しがらない」
「誰かのものを欲しがらない……?」
私は頷き、分かりやすい例をあげます。
「あの人が着ているドレス、私も欲しい。そこの人が食べている物を、私も欲しい。あそこの人の彼氏、私が欲しい……そんな風に、誰かのものを欲しがることを、やめるのです」
ヒロインさんは思い当たるのでしょう。青ざめ、唇を噛みしめています。当然です。悪役令嬢さんのことを想定して、投げかけた言葉なのですから。
「もう一つは、誰かが不幸になるようなことを、しないことです。誰かを不幸にすれば、それはあなたにかえってきます」
ヒロインさんは息を飲み、泣きそうな顔になってしまいました。
「大丈夫ですよ。今日から、今この瞬間から、心掛ければ。誰かのものを欲しがらない。誰かが不幸になることをしない。そうすれば、必ず幸せになれます」
ホロリと、ヒロインさんのローズクォーツのような瞳から、涙がこぼれ落ちます。私は洗面台に設置されているティッシュを、ヒロインさんに差し出しました。
「ありがとうございます、ありがとうございます」
「幸せになってくださいね」
私は洗面所を出ました。
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