4:ドキッとすることの連続
フランチェスカ様!
悪役令嬢さんのことです。
もちろんさっき見かけましたから、教えて差し上げると。
「ありがとう。助かったよ」
王太子様は、心からの笑みで御礼の言葉を口にし、私から視線を逸らします。そして「では失礼するよ、デュ・プレシ公爵令嬢」と言って、悪役令嬢さんがいる部屋へと歩き出しました。
デュ・プレシ公爵令嬢……ヒロインさんのことです。ヒロインさんのフルネームは、アメリ・デュ・プレシ。デュ・プレシ公爵家のご令嬢です。
「ちょっと。あんた、誰よ? 私とリュシアン様が話していたのよ。邪魔しないでもらえる?」
ヒロインさんが怖いお顔で、私を睨んでいます。
で、でも、確かにそうです。
余計なことをしてしまい、ヒロインさんを怒らせてしまいました。
「申し訳ありませんでした」
こんな時は、平謝りに限ります。
「ふんっ。まったく、気が利かないのだから」
ヒロインさんはプリプリしながら、ホールへと戻っていきます。
これだけで済んで良かったとホッとしながら、私もホールへと戻りました。
ホールではみんな、楽しそうにダンスを踊っています。ヒロインさんも、別の攻略対象の男子と、楽しそうに話し出しました。その様子に安堵しながら、私はテラスへと向かいます。
6月も近づくこの季節。
暑すぎず、寒すぎず、外にいても、とても過ごしやすいのです。テラスに出ると、そこは中庭につながり、大きな噴水が見えました。何組かの男女が中庭を散策し、ベンチに座り、おしゃべりをされています。
ホールの中の、にぎやかで華やかな世界から一転。
ここに聞こえるのは、虫の声と噴水の水音、囁くような男女の話し声。
そしてようやく日が沈み、夜空には星が瞬く、穏やかな世界が広がっています。端の方の目立たない場所にあるベンチを見つけ、そこに腰かけると。ようやく落ち着け……。
「ああん。もう、ダメよ!」
「どうして?」
「だって、私、婚約者がいるのだから」
「君から誘ってきたのに?」
「お遊びはここまでよ」
光沢のあるゴールドのドレスを着た女性が、植え込みから急に出てきました。ビックリして目を向けると、私に気づかず、すたすたと歩いて行きます。その後ろ姿を見て、ドキッとしてしまいました。背中が大きく開いたドレスで、なめらかな白い肌が丸見えです。アップにした髪についた葉っぱを取りながら、女性は早歩きで、ホールの方へと戻っていきます。体のラインを浮き彫りにするドレスなので、ヒップがゆらゆらと揺れているのが分かりました。
庭園の端の目立たない場所。
よく考えれば、男女が人目を忍ぶのに、ピッタリな場所です。どうやら私は、間違った場所を選んでしまったようですね。移動しようと立ち上がろうとした瞬間。
「ねえ、君、一人でどうしたの?」
この声はさっきの……。
振り返ってその顔を見て、息を飲みます。
大変です。
また夢キスの攻略対象の男性ではないですか!
夢キスの攻略対象の男性は全部で5人。そのうち3名はクラスメイト。そして私に声をかけてきたのは、学生ではない、これまた大人の男性。大人といっても、正確な年齢は分かりません。なにせこのクレマン・カラッソは、エルフなのです。
この世界、というか夢キスの舞台となる世界は、西洋風なのですが。人間以外の種族も、普通に存在しています。ただ、圧倒的に数は少ないのです。特にエルフは、希少な存在。よってエルフは大切に扱われています。かくいうクレマン様も、この国では、国王陛下に仕える特別顧問という役職についていました。エルフは、魔法とも違う、不思議な力を有しています。弱った土地を癒し、枯れた木々を再生させ、川の氾濫を鎮める。そんなことができるエルフだから、とても大切にされているのです。
加えてエルフは、とても美しい容姿をしています。クレマン様も、月の光を束ねたかのような、サラサラの長いプラチナブロンドをお持ちで、耳も珍しい形です。その瞳は、宝石のオパールのようであり、そして万華鏡のように、色が変わります。鼻もかなり高く、肌はシルクのように美しく、身長も2メートル近くあるのです。見た目はとても若々しいのですが、年齢は不明。おそらくその若々しい姿のまま、何百年も生きていると言われています。
とてもモテる方であり、本人も女好きであることから、クレマン様攻略ルートを制するのは……とても大変でした。その時のプレイ経験と私の本能が、近づかない方がいいと、反応しています。
「いえ。一人ではなく、知り合いがホールにいますので。失礼させていただきますね」
そう言って立ち上がると。
クレマン様はなぜか私の腕を掴んでいます。
「嘘はダメだよ、ライラックの美しい君」
お読みいただき、ありがとうございます!
次回は明日、8時頃に「私がお相手するのは無理です(@ @;)」を公開します♪
もし良かったら、こちらも……。
★★女性読者も楽しめる物語★★
『異世界召喚されたら供物だった件~俺、生き残れる?~』
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現在、【Episode3】俺の貞操大ピンチ編
を更新中です。
バトルあり、少しエッチですが
主人公は純愛を貫きます。
コミカルで楽しくお読みいただけると思います。
試し読みのご検討、ぜひお願いします!
【Episode1】死亡フラグ遂行寸前編(R15作品)
婚約者に襲われた美少女ヴァンパイアのベリル。
大量出血したベリルは、失った血を補給するため、
拓海を召喚していた。
召喚者のベリルと供物の拓海。
童貞のまま死にたくないという拓海にベリルは
「吸血時に注入する魔力は全身に強い快感をもたらす。
例え童貞だったとしてもめくるめく快楽で、
あたかもそれを喪失したかのような気持ちで逝ける」
と言うのだが……。