46:私はただのモブなのですが(^▽^;)
「リラ・アルダン――。あなた、同学年だったのね。しかもリュシアン様とはクラスメイト。昨日の貴賓席で見た時には……まったく気づかなかったわ。でもその制服姿を見たら……。納得ね。確かにあなた、いたわね。教室に。いつも最後尾の窓際の席に、おとなしく座っていらして。ロマンが何度か絡んでいるところは、見たことがあったけど。普段は完全にオーラを消しているわ。
ドレスアップして、お化粧したから、別人のようになっていた――だけじゃないわよね。教室では、あえて目立たないように、おとなしく、背景に溶け込むようにしていた。そんな風に思えますわ。勿体ないことね。あなたなら十分、多くの男子を惹きつけることができるのに」
悪役令嬢さんの分析は……完璧です!
まさにその通り。ドレスとお化粧で外見は変ります。でもそれだけではないのです。指摘の通り、学校で私は背景の一部になるべく、おとなしく目立たないよう、細心の注意を払っていました。
「フランチェスカ、君はこのリラ嬢に、御礼を言いたかったのでは? 今のような言い方では、反応に困ると思うよ」
うわあああああ。
王太子様が、バッサリ悪役令嬢さんを斬るので、思わず焦ります。一方の悪役令嬢さんは「確かにそうね」と、なんとあっさり引き下がり、王太子様の言葉を受け入れました。
「同級生よね。だからリラ、とお呼びしていいのかしら? 私のことは、フランチェスカ、と呼んでくださって構わないので」
!!
悪役令嬢さんをお名前で、しかも呼び捨てで!?
い、いいのでしょうか!? 私はただのモブなのですが。
「それでリラ。あなたにはまず、感謝を言いたいの。私の弟のために、身を挺して戦ってくれたことに。本当に、ありがとうございます」
膝の上の、自身の左手に右手を重ね、上半身を折り曲げるようにして、悪役令嬢さんが頭を下げました。こんな風に誰かに、深い謝意を示す悪役令嬢さんを見ると……驚いてしまいます。夢キスの悪役令嬢さんは、いつもツンとしているイメージだったので、ビックリです。何はともあれ、顔を上げていただくよう、慌ててお願いしました。顔を上げた悪役令嬢さんは、カバンを膝の上に置くと、中から封筒を一枚取り出します。
「これは弟のリビオからよ。リラに渡して欲しいと頼まれましたの」
「それはわざわざありがとうございます」
封筒を受け取り、カバンにしまいます。
「リラも聞いていると思うけど、あの女狐……アメリ・デュ・プレシは、私の弟リビオと、お茶をしたかったなんて言っているけど、あれは大ウソよ。あの女はね、ずっとリュシアン様にちょっかいを出していて、何度注意しても止めないのよ。多分、リビオをさらって、解放してほしいなら、私とリュシアン様の婚約を破棄しろ、そんな風に脅すつもりだったと思うわ」
悪役令嬢さんは、美しいブロンドの巻き髪を手で払いながら、大きなため息をつきます。すると隣に座る王太子様は……。
「わたしは何があっても、フランチェスカと別れるつもりはない。例えリビオをさらおうと、そして取り戻すために、一度婚約を破棄したとしても。リビオが戻ったら、再びフランチェスカと婚約すればいいだけだ。だから彼女が何をしようと、わたしとフランチェスカの関係は変わらない」
そう囁いた王太子様は……。
悪役令嬢さんの手をとり、その甲に、当然のようにキスをされます。
なんと、なんと。
王太子様は、悪役令嬢さんに、ゾッコンだったのですね。
これはヒロインさん、王太子様は諦めた方がいいと思います。
どうやら私が転生した世界は、王太子様と悪役令嬢さんのハッピーエンドルートだったようです。それは確かに夢キスにも存在していました。でもこのルートは、特殊ルートです。一度全ての攻略対象を攻略した上で、再度王道の王太子攻略ルートを選択。でも王太子様の好感度を一切あげずにエンディングを迎えることで、発生します。
悪役令嬢さんは、いつも悲惨な末路ばかり。
損な役回りばかりで、可哀そう。
そんなファンの声に後押しされた夢キスの制作陣は……。
こっそり非公表で、悪役令嬢さんハッピーエンドルートを入れ込んでいたのです。ヒロインさんには、かなりショッキングなエンディング。だからといってヒロインさんが、断罪されるわけではありません。多分、ですが、ヒロインさんが王太子様以外の相手を選べば。誰にも邪魔をされることなく、結ばれると思うのです。そして悪役令嬢さんは、そのまま王太子様とハッピーエンドを迎える……。
ヒロインさんが王太子様を諦め、他の攻略対象に目を向けることができるといいのですが。
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