44:冒険の翌日は異常事態発生(ノ><)ノ
「ドレスは確かにリラ様の言う通り、クロード様の妹様の物だったそうです。でも妹様はご結婚され、体型も変わってしまい……。仕立ててから、一度も着ることがなかったドレスなんだそうですよ。実家にずっと放置されていたので、もうこのドレスのことは、忘れている可能性が高い。だからもらってください――そうクロード様は、旦那様に伝えられたそうですよ」
なるほど。そんな事情があるのであれば。ドレスは……せっかくなのでいただいても問題ないでしょう。代わりにこちらからは、ドレスを仕立てるための素敵な生地を見つけ、お返しをすればいいと思います。でもアクセサリーは……。
「そしてペンダントとイヤリングと髪留め。それは元々リラ様へプレゼントするために、ご用意されていたそうです」
「え……?」
「急にトリコロール剣術祭に招待してしまい、いろいろ苦労されることになったリラ様に、御礼の気持ちを込め、用意されていたそうです。ペリドットを選んだのは、リラ様が8月生まれで、誕生石だったからとのことですよ」
これには本当に驚きました。
剣術祭に招待いただいた上に、御礼をされるなんて。
しかもわざわざ私の誕生日が8月であると確認し、ペリドットを選んでくださっていたとは……。
クロード様は、本当にお優しい方です。
夕食への招待にあわせ、ギフトを用意しましょう。
何よりもまず、その夕食会の日程を、決めないとなりません。
夕食会について「我々が同席しては、話もしづらいだろうから、二人で楽しむ夕食会にするといい。ただ翌日が学校だと、落ち着かないだろう。土曜日にお誘いしては?」とお父様がアドバイスしてくれました。
確かに翌日がお休みの方が、安心です。クロード様に「土曜日でご都合の良い日を教えてください」と、手紙を書くことにしました。もちろん、ドレスやアクセサリーの御礼もしたためます。
今日、温室をのぞいた時、ストロベリーが実っているのを確認していました。そのストロベリーと手紙を明日、ココからクロード様に、届けてもらうようにします。
手紙を書き終えると、疲れがどっと出た感じがしました。前世でも経験したことのない冒険(?)をした上に、クロード様という、大人の男性とのアフタヌーンティーまで体験したのです。これはもう、疲れても当然ですね。ベッドに潜り込むと、あっという間に眠ってしまいました。
◇
翌朝。
身支度を整え、朝食に向かいます。
朝食をいただきながら、両親とクロード様への御礼について話しました。ドレスをいただいた御礼として、クロード様の妹様には、新たにドレスを仕立てられるよう、生地を贈ることで決定です。その生地については、お母様が特別に上等な生地を手配し、贈ってくださるとのこと。
一方、クロード様への御礼の贈り物は、私自身が選んだ物がいいだろうと両親がアドバイスしてくれます。私もそうしたいと思っていたので、学校がお休みの日にお店へ行くことにしました。
そんな風に話しながら、普段通りの朝食をとっていると。
いつも落ち着いているバトラーが、髪を乱し、部屋に入ってきました。お父様の元へ行くと、耳元で何かを話します。
すると。
突然、お父様が立ち上がり、「なんだと!!」といつにない大声を出しました。二人の弟は驚いて、フォークを落とし、パンを転がします。私も紅茶の入ったカップを持ったまま、固まりました。お母様もナプキンを手に、動きを止めています。そんな私達の顔を見渡しながら、お父様が口を開きました。
「た、大変だ。お、王太子様がいらっしゃるらしい。婚約者のバティア公爵令嬢もご一緒に。リラと一緒に登校されたい……とのことだ!」
これにはその場にいた家族全員が叫びます。
「「「「ええええええ」」」」と。
王太子様は、確かにクラスメイトですが。
それは教室という部屋の中に、一緒にいるだけ。夢キスという乙女ゲーの設定通り、私は背景です。王太子様を捉えるカメラがあるならば、そのカメラが映す画面の背景に、最後尾の座席に座っている女子学生がいる――それが私です。
そんなモブの私が住まう屋敷に、王太子様がやってくるなんて、一大事。私はココにより、上から下まで、何か問題ないかチェックされました。召使いは、門から庭からエントランスまで、ゴミが落ちていないか、汚れがないか、血眼になって点検しています。両親も手持ちの一番上等な服に着替え、二人の弟も召使いの手で、おめかしさせられました。
トリコロール剣術祭で、王太子様と接点を持ったこと自体、尋常ではないことです。でもそもそもモブの私が貴賓席にいること自体が、イレギュラーだったので、あの場で王太子様と接点があったのは……。もうハプニングと思い、あまり気にしないようにしていました。
でも、今は違います。
モブの日常に、王太子様と悪役令嬢さんが踏み込んでくるなんて、異常事態です。とんでもないバグが発生中と言っても、過言ではありません。いきなりこの世界が暗転し、終了してしまうのでは……そんな不安さえ覚えてしまいます。
ともかくとんでもない緊張感を抱え、今、私は家族と共に、エントランスに立っていました。王太子様と悪役令嬢さんの到着を待って。
「王太子様を乗せた馬車が、門を通過し、順調にこちらへ向かっています!」
お読みいただき、ありがとうございます!
次回は明日、8時頃に「緊張感MAXです」を公開します♪
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★アズレーク視点 第二弾 本日公開★
『断罪終了後に悪役令嬢だったと気付きました!
既に詰んだ後ですが、これ以上どうしろと……!?』
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かっぱえびせんのように読み始めると止まらない本作。
ヒロインとは違う、男性視点では新たな気づき
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