41:いつになく饒舌になっていました
チラリと見ると、クロード様は、まだ騎士様と話をされています。私はアンヌさんに促され、馬車へ乗り込みました。席に座り、カバンの方に目をやると。箱があります。確認すると、中身は逃走のために脱いでしまったハイヒール! もしやと思い、カバンの中を見ると……。あの時、男達に向けて投げた金貨も、ちゃんとしまわれていました。
クロード様の部下の騎士様は。
真面目で仕事熱心なのだと感動です。
「待たせたね、リラ。行こうか」
クロード様は馬車に乗り込み、当然のように対面の席へ座ります。これには驚いてしまいました。てっきり私一人がこの馬車で、屋敷まで行くのかと思ったからです。
「リラを送ったら、宮殿へ行くよ。王太子様に呼ばれたから」
なるほど。
少し遠回りになりますが、私を送り、宮殿へ向かう。だから同乗している。これは納得です。それにしても王太子様に呼ばれた……。間違いなく、今回の騒動の件で呼ばれたのでしょう。
「トリコロール剣術祭の後で、お疲れでしょうに。大変ですね」
「心配してくれているのか?」
「はい」
「大丈夫だよ。僕は日々訓練しているから、体力はある」
そう言って笑うクロード様は、変わらず少年のような快活な笑顔。そこに疲れは微塵も感じさせません。騎士という役目を担う皆様が、このようにタフなのか。クロード様だから、ここまで元気なのか。それは分かりません。だだ、この笑顔には安心できました。
「リラこそ、明日は学校だろう。今日はゆっくり休むんだぞ」
「そうですね。……とはえ、せっかくこんなに素敵なドレスを着せていただいたのです。本当はもう少し、何かしたいところなのですが」
それは純粋に本当に、とても素敵なドレスだったので、つい口をついて出た言葉でした。でもこれを聞いたクロード様は……。
「それは……申し訳ないな。僕の配慮が足りなかった。せめて庭園の散歩でも、誘えば良かった。とにかく女性の扱いには不慣れなもので……。すまないな、リラ」
大変真面目な表情で、クロード様が謝罪の言葉を口にされます。クロード様は何も悪くないのに。そのことを伝えようとも考えたのですが……。なんだかまた、理路整然と話してしまいそうです。そこでこんな提案をしてみました。
「クロード様。ではアルダン家の屋敷に着きましたら、少しだけ寄り道をしてもいいですか? エントランスに向かう前に。王太子様をお待たせするわけにはいかないので、ほんの少しだけ、お時間をいただければ」
こんな提案をされると思わなかったクロード様は、驚いています。でもすぐに瞳を細め、笑顔になりました。少し頬を上気させたクロード様は「もちろん」と快諾してくださいます。提案を受け入れられ、私も嬉しくなりました。するといつになく饒舌になってしまいます。つまり、私から沢山、クロード様に話しかけていたのです。
クロード様は、お休みの時は何をなさっているのか。好きな食べ物は何か。気に入っているお花はあるのか。どれも他愛のないことを尋ね、その答えから会話を膨らませていく感じでした。クロード様は、どんな質問にも笑顔で答えてくださります。さらに私にも、休みの日は何をしているのかと、問い返してくださります。
お互い話に夢中になっている間に、屋敷の敷地の近くまで来ていました。あっという間です。正門から敷地にはいり、しばらく行った場所で、馬車を止めてもらいました。馬車を降り、クロード様にエスコートしてもらないながら、私が向かった場所は――温室です。
お母様はハーブがお好きで、この温室を設けられました。ただ、とても広い空間です。ハーブ以外にも、いろいろな植物が育てられています。その中の一つにオレンジがありました。丁度、食べ頃のオレンジが、沢山実っています。温室の中に入ったクロード様は……。多くの植物、様々な実がなっている様子に、驚いていらっしゃいます。
温室に置かれた籠を手に、オレンジをとろうと手を伸ばすと。
「リラ、僕がとろう」
クロード様はお持ちの短剣で、オレンジを次々と茎から切り落とし、籠にいれてくださいます。全部で6個ほどが、籠の中に納まりました。
お読みいただき、ありがとうございます!
次回は明日、8時頃に「クロード様の笑顔.。.:*☆」を公開します♪
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『悪役令嬢完璧回避プランのはずが
色々設定が違ってきています』
Episode2の連載が
明日 4月8日(土) 11時台
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上記作品もお楽しみいただいている読者様。
お待たせいたしました!
未読の読者様はこの機会にぜひ
遊びに来てください!