40:並々ならぬ期待をされている(;^_^
「きっと君には……回りくどい手は、通用しないということか。リラは僕にとって勝利の女神。だから……という手は封じられたわけか。本当に。君は手強い。それでなくても僕は、女性の扱いになれていないから。参ったよ」
クロード様が何を言おうとしているのか、まったく分かりません。思わず首を傾げると。クロード様は私を見て、片手で自身の顔をおさえ、ふうっと大きく息をはきます。
「こんなに心を揺さぶられるなんて。どんな敵を目の前にしても、動じないと言われた僕が……。リラ、君の前では……無防備な少年になってしまう」
顔をおさえていた手で、髪をかきあげると……。
クロード様は、いつもとは異なる雰囲気になりました。思わず心臓が、ドキッとしてしまいます。その状態で、さらに流し目で私を見たのです! 多分、今の私は顔が真っ赤です。こんなクロード様の表情を見て、反応しないなんて、無理な話かと……。
「リラ、そのエクレア、食べないのかい?」
クロード様の指摘で、自分がずっとエクレアをもち、固まっていたことに気づきました。
「い、いえ、いただきます……!」
慌ててエクレアを頬張ります。するとクロード様はようやく自身の髪から手をはなし、視線を私からはずしてくれました。ホッとして、ようやくエクレアを飲み込むことができます。気持ちを静めるため、ミルクティーを飲みました。
「リラ。今度、夕食に誘っても、いいだろうか?」
「!? ゆ、夕食ですか?」
なぜ突然、夕食に?
いえ、その前に。
私は沢山のお花をいただいているのに、そのお返しができていません。夕食に招き、御礼をすべきは……私の方なのではないでしょうか? お父様にもお母様にも、まだ許可をとっていません。でもお花が届いていたことは、二人とも知っています。だからきっと許してくださるはず……。
「あ、あの、クロード様。夕食でしたら、私から招待させていただいても、いいでしょうか? 連日素敵な花束をいただいたのに、何のお返しもできていません。ささやかですが、アルダン家にて、おもてなしをさせていただければ」
すると。
クロード様の、サファイアのような瞳が大きく見開かれました。その目は信じられないほどキラキラと輝いています。なんて美しい瞳なのでしょう。
「……本当に僕を夕食に……招待してくれるのか?」
感無量という表情のクロード様を見て、背中に汗が伝います。アルダン家の夕食に、並々ならぬ期待をされている……と感じます。これは生半可な夕食は提供できません。大変な提案をしてしまいました。帰宅したらお父様とお母様に、すぐに相談しなければなりません。
「は、はい。その、満足いただける夕食をご提供できるかは、分かりません。でも最善を尽くします」
私の返事を聞いたクロード様は……。
笑顔が太陽のように輝いています。心から嬉しい――その喜びが伝わる笑顔に、思わず私も笑顔になってしまいました。
「ありがとう、リラ。とても……とても嬉しいよ。日程が決まったら、招待状をすぐに送って欲しい。どんな用事もよりも優先し、必ず行くから」
「え、そんな。クロード様のご予定が分かれば、こちらが合わせます。クロード様は、お忙しいのですから」
「いや、招待するのはリラだ。君の予定を優先してもらって構わない」
結局、お互いの予定を確認し、相談して決めることで落ち着きました。同時に、私のことを屋敷まで送ってくださることになりました。
エントランスに向かい歩いていると。
召使いや部下と思われる騎士様がやってきました。するとクロード様に、なにやら報告したり、相談したりされています。見るからにお忙しそう。エントランスに着き、外へ出ると、そこには既に馬車が待機しています。開いた扉から馬車の座席を見ると……。トリコロール剣術祭に持参していたカバンや日傘が、置かれているのが見えます。
さらにアンヌさんが来てくださり、私がつけていたペンダント、イヤリング、カチューシャを入れた巾着を渡してくれました。その間クロード様は、新たにやってきた騎士様と何か話し込んでいます。
「下着とドレスについては、こちらで汚れを落とし、お届けいたします。これは公爵家として当然の対応です。リラ伯爵令嬢は何も言わず、頷いていただいて問題ございません」
なぜかアンヌさんの言葉は説得力があり、私は「はい。分かりました。お気遣い、ありがとうございます」と返事をしています。年齢はクロード様より少し上ぐらいで、黒髪に黒い瞳のアンヌさんですが、とても貫禄がありました。
このあともう1話公開します!
12時台に公開します。