39:必死に頭をフル稼働させます
「リラ、もう一つスコーンを食べるかい?」
「いえ。もう大丈夫です」
「ではこのクレームブリュレを食べてご覧。リッシュモン家の料理人が作るクレームブリュレは美味しいと、実は評判なんだよ」
「そうなのですね! では遠慮なくいただきます」
小さめなココットに入ったクレームブリュレをとり、スプーンでコンコンと叩くと、焦げ目のついたカラメルが、パリパリと砕けます。柔らかいカスタードを、カラメルと一緒に口に頬張ると……。ほろ苦く、甘く、柔らかく、硬く。口の中で、相反する味と感触が、不思議なダンスを繰り広げます。美味しい……。
「リラのその表情。僕も食べたくなってしまった」
クロード様も、クレームブリュレをとり、私と同じように、コンコンとカラメルを叩いています。そこにアンヌさんがやってきて、おかわりの紅茶を注いでくれました。二杯目は、ミルクティーでいただきます。
ペイストリーをいただきながら、クロード様とは、トリコロール剣術祭のことを話しました。初戦の相手は、実はこの春に、騎士団に入団したばかりの新人。少し手加減をした方が良かったかと、クロード様は、申し訳なさそうな顔します。さらに練習試合では、ヘクトル様に何度か負けたことがあるとか、いろいろな裏話情報を教えてくださるのです! クロード様のお話は、とても楽しく、ペイストリーを食べる手も止まりません! やがてクロード様は、初めて会った舞踏会での出来事を、振り返りました。
「あの舞踏会で、リラが突然、『騎士団長様のことなら、存じ上げています! トリコロール剣術祭で、騎士団長様は優勝されましたから!』と言った時は、本当に驚いたよ。リラ、君は本当に、何者なんだい?」
エクレアを食べようとしていた私は、この不意打ちに、固まってしまいます。
その件を今、蒸し返されると思っていなかったからです。本当に、どう答えたらいいのでしょうか。やはり夢キスをプレイして知りえた情報は、不用意に使わない方がいいのでしょう。いえ、今はそんな教訓はおいておき、クロード様の問いにどう答えるか、それを考えなければなりません。
「リラ、僕は今日のトリコロール剣術祭で、勝利を収めることができた。リラは僕が優勝すると言ってくれた。なんの迷いもなく、断言してくれた。その気持ちに応えたい。その強い思いで勝利できたと思う。だから間違いない。君は何者か。その答えは、僕の勝利の女神だ」
えっと、これは……。
何者なんだい?という問いかけに、クロード様ご自身が答え、解決した、と解釈していいのでしょうか……? それとは別に、これは大切なことなので、訂正しておかなければなりません。必死に頭をフル稼働させながら、言葉を紡ぎます。
「トリコロール剣術祭で、クロード様が優勝されたらと思っていました。その願望を、私は口に出してしまったのだと思います。クロード様は、お優しい方です。無意識のうちに、私の願望に応えたい、そう思ってくださったのだと思います。そして次第にクロード様の中で、私が勝利の女神へと昇華されてしまったのではないでしょうか。でもクロード様なら、私の有無に関わらず、実力で優勝できたはずです。この度の勝利は、間違いなくクロード様の実力。それは実際、剣術披露を見て確信できました」
クロード様は突然、「降参だ」と両手を挙げています。
今日の剣術祭で優勝したクロード様が、降参だなんて。
驚いて、私の方が降参なのですが……。
「リラ、君は本当に学生なのかい? スコーンを食べている時は、本当に少女のような顔をしていたのに。でも今の僕に対する分析は、大人顔負けだ。君にそう言われると、そうなのだと思えてしまう」
な、なるほど。そうでしたか。必死に言葉を紡いだだけなのですか……。でも本当にあの勝利は、クロード様の実力だと思うのです。
昨日に続き来訪いただけた方、ありがとうございます!
この投稿を新たに見つけていただけた方も、ありがとうございます!!
このあと 11時台に、もう1話公開します!
ブックマーク登録いただいた読者様。
いいね!をしてくださった読者様。
応援、ありがとうございますo(⁎˃ᴗ˂⁎)o