3:墓穴を掘ってしまいました(><。)
ああああ、どうしましょう。
先走ってしまいました。
3日後のトリコロール剣術祭で、騎士団長様は優勝されるのでした……!
困り切った私の顔を見て、騎士団長様は、爽やかな笑みを浮かべます。
「そんなに困った顔をしないで、レディ。君が言う通り、僕は剣の騎士団『ドランゴン』の団長、クロード=アレクサンドル・リッシュモンです。どうぞ僕のことは、クロードとお呼びください」
「え、そんな、騎士団長様を、お名前だけで、お呼びするなんて」
「ではせめて、クロード様にしていただけますか? 騎士団長は、後二人いますから。せっかく君に呼んでもらえても、あと二人も余計な輩が振り返っては、困ってしまう」
確かに騎士団は、槍の騎士団『ペガサス』、弓の騎士団『フェニックス』があるので、騎士団長様は……残り2人いらっしゃいます。
「分かりました。確かにその通りですね。で、では……クロード様」
きゃぁぁぁ、どういたしましょう!
クロード様。
そんな風にお呼びできるのは、彼の大切な人になった時だと思っていたのですが。
つまり、彼をゲームで攻略した時と考えていたわけです。
「ありがとう、レディ。そう呼んでもらえると光栄です。ところで君の名前をお聞きしても?」
クロード様に名前を聞かれるなんて……!
でも先に名乗っていただいているのです。
「私はアルダン伯爵家の長女リラと申します」
「リラ……いい名だ。君が着ているドレスのような、美しい色の花の名前。君にピッタリに思える」
クロード様に、そんな風に言っていただけるなんて。
思わず頭も体も、ぽーっとしていましたが。
「見つけましたわ、クロード! どうしてこんなところに?」
この声!
クロード様の後ろに、真紅のドレスを着た悪役令嬢・フランチェスカさんの姿が見えています。
悪役令嬢さんは、本当に大輪の花のように美しい女性です。
女性。
そう、同学年の女子と思えない、大人の女性に見えます。
髪は見事なブロンドの巻き毛で、珍しいルビー色の瞳はパッチリ大きく、鼻も高く、唇と頬はチェリーレッド色。肌は輝くような白さです。胸も私の倍はありそうな大きさで、ウエストは細く、ドレスで見えませんが、きっと美脚のはず。
とても綺麗な方ですが、怒ると怖い方なので、私は静かに退散します。
今、悪役令嬢さんは、クロード様に夢中になって話しかけているので、私のことなど、目に入っていません。逃げるなら、今のうちです。
見事にフェードアウトし、廊下へ出ようとしたまさにその瞬間。
「リラ!」
クロード様に名前を呼ばれ、驚いて振り返ります。
振り返った私を見て、クロード様は笑顔になりました。
「リラ、トリコロール剣術祭の招待状を送る。絶対に来て欲しい」
!!
大変です。悪役令嬢さんが、怖い顔で私を見ています。
私はドレスをつまみ、一礼すると、すぐに廊下へと、飛び出しました。
ビックリです。
社交辞令でしょうか。それとも本当に……?
!?
思考が中断され、再び稼働します。
再稼働した脳は、別の人物を認識し始めています。
え、まさか……。
数メートル離れた場所に、夢キスのヒロインさんと、この国の王太子様がいらっしゃいます。
この国の王太子リュシアン・ド・ラ・デュカスは、悪役令嬢さんの婚約者。でもヒロインさんは、王太子様の攻略を選んだようで、絶賛アプローチ中のようです。
ヒロインさんが王太子様を選んだ理由。
それはよく分かります。
王太子様は、本当に絵に描いたような王子様。
金髪碧眼の整った顔立ちで、すらっとして背も高く、文武両道です。今日は白シャツにコバルトブルーのクラヴァット、セレストブルーのジレ、同色のズボンに白革のロングブーツ、そして袖や裾にガラスの模造宝石、金・銀糸で刺繍が施された、セレストブルーのテールコート。白馬に騎乗するのに、ピッタリな装いです。
とにかく、触らぬ神に祟りなし。
先ほどは思いがけず、クロード様と話したことで、悪役令嬢さんに睨まれてしまいました。だからここは顔を伏せ、通路の端を通り、ホールへ移動です。
本当は、もう屋敷に帰りたい気持ちになっていましたが。屋敷で火事が起きるのは2時間後。この舞踏会の会場から屋敷までは、馬車で約45分。少なくともあと1時間半は、舞踏会にいる必要があります。
慎重に、ヒロインさんと王太子様の邪魔にならないよう、歩みを進めました。
それこそ壁の一部になったつもりで、気づかれないように、そうっと、そうっと。
「そこの君」
男性としては、少し高音の美しい声が聞こえた気がします。
そう、聞こえた気がするだけ。
気のせい、気のせい。
「君、ラベンダー色のドレスの君」
困りました。
今、この場にいるドレス姿の女子は、二人。
ヒロインさんのドレスは、眩しい程に輝いている、カナリア色のドレスです。そして私は……。
「は、はい。私のことでしょうか」
仕方なく立ち止まり、王太子様を見ます。
王太子様は碧眼の美しい目で私を見ると、優雅な笑みを浮かべて尋ねました。
「フランチェスカを探しているのだけど、君、知らないかい?」
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