37:月桂樹に何か問題が……?
「リラ、すまない。気にしないでほしい。何も、何も問題は……ない」
クロード様はそう言うと、足早に席につきます。
問題は何もない。そうおっしゃられているのですが、着席したクロード様の顔は赤いままで、視線は……。月桂樹の鉢植えに注がれています。月桂樹に何か問題が……? 気になり、私も月桂樹を眺めていると、召使いの方が、三段スタンドやティーポット、カップとソーサーなどを次々と並べて行きます。カップに紅茶が注がれ、甘い香りが漂いました。これはアッサムティーですね。
召使いの方が下がり、もうアフタヌーンティーをスタートさせても大丈夫な状況ですが、クロード様は目を閉じ、なぜか深呼吸を繰り返されています。どこか気分が悪いのかと心配になった時。
「クロード様。紅茶が冷めないうちに、お召し上がりになってください。リラ伯爵令嬢も、お待ちになっています。クロード様のご指示に従い、身支度を整えました。ちゃんと前を向き、失礼のないようにお願いします」
アンヌさんの言葉に、クロード様は閉じていた目を大きく見開き、一瞬息をのんだ後、顔をあげました。
「……ありがとう、アンヌ」
クロード様はそう言うと、ゆっくり、視線を私に向けます。瞳を潤ませ、口を開かれました。
「……リラ、そのドレスも、アクセサリーも、髪型も、お化粧も、すべて完璧だよ。僕が想像していた以上で驚き過ぎてしまい、すまなかった。さあ、アフタヌーンティーを始めよう」
はにかむような笑顔のクロード様は、やはり少年のように若々しく見えます。そのまま見惚れそうになり、慌てて「素敵なドレスやアクセサリーをお借りすることができ、光栄です。ありがとうございます」と御礼を言ってから、紅茶を口に運ぶことにしました。
すると。
クロード様は、まるで私を真似るかのように紅茶を一口飲み、ほうっと息をはかれます。
クロード様の、アンニュイな様子は気にかかりますが、紅茶の温かさが胃袋に伝わった瞬間。空腹に火がつきました。このままでは、お腹の虫がなりそうだったので、サンドイッチをお皿にとり、いただくことにします。
キューカンバーサンドは、たっぷりのバターとキュウリが絶妙な塩梅で、とても美味しくいただくことができました。スモークサーモンのサンドイッチは、マスタードとバターのバランスがよく、スモークサーモンとの相性もバッチリ。ペロリといただいてしまいます。グリーンカールと生ハムのサンドイッチも、マスタードと生ハムの塩加減がよくあい、こちらもあっという間に食べてしまいました。
私がパクパクとサンドイッチを食べる様子を、クロード様は眺めていましたが、そのクロード様を私が見ると……。クロード様はバツが悪そうな顔になり、慌ててサンドイッチを、ご自身のお皿におとりになります。
挙動不審なクロード様が心配になりつつ、そう言えばと、質問をしてみることにしました。
「あの、クロード様」
キューカンバーサンドを、まさに口に入れた瞬間に声をかけてしまい、しまった、と思いましたが……。クロード様は、問題なくサンドイッチを食べ終え、「なんだろうか」と顔を赤くしながら、微笑まれます。
「リビオ様をさらおうとした一味について、何か分かったことはあるのですか?」
この質問をした瞬間。
クロード様の顔つきが、ガラリと変わります。頬の赤みは瞬時に消え、眼光は鋭くなり、キリリとした顔つきになりました。
「なかなか口を割らなかったが、王太子様が、動いてくださってね。雇い主の名を明かさなかったら、サンティーユ牢獄に収監するという話をちらつかせたら、あっさり白状した」
サンティーユ牢獄は、この国で一番厳しい牢獄と言われています。この牢獄に入るぐらいなら死刑の方がまし、という風評があるぐらいです。よって多くの犯罪者が、この牢獄の名を聞くと、罪の自白を行うと言われていました。
ただ、サンティーユ牢獄には、多くの政治犯が収容されています。よってここに収監するには、国王の許可が必要となるのです。ゆえに並みの犯罪者では、収監されません。その上で、収監される可能性がある――そんな話が出るということは……。白状しなければ、確実に収監されることになります。ですから男達も、白状したのでしょう。
このあともう1話公開します!
12時台に公開します。
【告 知】
★アズレーク視点 第二弾 8日(土)12時台公開★
『断罪終了後に悪役令嬢だったと気付きました!
既に詰んだ後ですが、これ以上どうしろと……!?』
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こちらもお楽しみください(๑•ᴗ•๑)