35:涙がこぼれそうになります(T-T*)
なんて広いお部屋でしょう。沢山の窓から、午後の明るい陽射しが降り注いでいます。このお部屋は二階にあり、窓から外を見下ろすと、素敵なお庭と噴水がよく見えています。
部屋の中に目を向けると、座り心地がよさそうな応接セットにダイニングセット。壁際に置かれた本棚には、ズラリと本が並んでいます。二つの巨大なシャンデリア、天井に描かれている壮大なスケールの絵画。壁に飾られた絵画には、リッシュモン家の先祖の皆さまのお姿が描かれています。もう息を飲んでしまいますね。
気づくとクロード様の後ろに、他に二人の召使いがついてきており、浴室と思われる部屋へと歩いて行きます。入浴の準備をしてくださるようです。
クロード様は、そのまま応接セットのソファまで行くと、そこで私のことを降ろしてくださいました。
「それではリラ、ゆっくり身支度を整えるといい。何か足りない物があれば、遠慮なく言って欲しい」
「ありがとうございます。クロード様」
微笑んだクロード様が部屋から出て行くと、アンヌさんが私のそばに来ました。
「では入浴の準備をしている間に、ドレスを脱いでしまいましょう」
そう言いながら、私にスリッパを差し出してくれます。
「ありがとうございます」
アンヌさんについて歩いて行くと、寝室に案内されました。
寝室もまた、広々としています。天蓋付きのベッドの他に、暖炉、ソファセット、クローゼット、文机、本棚。寝室としてではなく、この一部屋で暮らせそうです。
衝立が置かれた姿見のある場所に案内され、そこで私は初めて、自分の今の姿を確認しました。つまり、姿見に映る自分の姿を見たわけですが……。もう泣きそうです。
屋敷を出た時、ドレスも髪も完璧でした。
トリコロール剣術祭の最中も、完璧だったはずです。
それなのに……。
あの男達との騒動のせいで……。
綺麗に結い上げたはずの髪は、今にも崩れそうになっています。薔薇の飾りがなくなったカチューシャが、なんとか崩れそうになる髪を押しとどめていました。クロード様のマントの下からは……。裾がボロボロにほつれ、ところどころサテン生地が裂けているドレスが見えています。さらに土や草や葉っぱまでついていました。上半身のレースも、破けており……。アンヌさんがマントを外すと。
ドレスの背中側は、もっと悲惨です。丁度お尻と分かる位置に、丸く土がついています。その周辺も、土や葉っぱでいっぱいです。背中のレースはボロボロ。ドレスから露出している背中や首にも土がついています。よく見ると、腕や肘にも土がついていました。こんな姿をクロード様に見られたのかと思うと……。恥ずかしさで、涙がこぼれそうになります。
「お嬢様」
突然、アンヌさんから声をかけられ、息を飲みます。アンヌさんはゆっくりドレスを脱がせながら、私に語り掛けてくれました。
「私は事情を何も聞いていません。ですから的外れでしたら、お許しください。今、姿見に映るご自身の姿を見て、泣きそうになっていますが、泣く必要はございません。なぜなら、クロード様がお嬢様を見る目は、真摯なものでした。外見の乱れを気にする様子は、微塵もありません。このような状態ということは、よほど大変な出来事があったのでしょう。でもこのような姿にお嬢様がなることで、助かった方がいるのでは? 自らを犠牲にし、どなたかを助けた。だからこそクロード様は、お嬢様がこのような姿でも、気にされていないのでは? 大丈夫ですよ。この後お嬢様は、再び本来の美しい蝶のような姿を取り戻します。そのお姿を見たら……。今のこの姿を、もうクロード様は、思い出すことが出来なくなります。私達を信じてください。身支度を整えましょう」
「アンヌさん……」
アンヌさんはニッコリ笑い、ペンダントを外し、私にバスローブを着せてくれます。イヤリングをはずし、カチューシャをとり、髪をおろしてくれました。足元にあるドレスや下着を籠に入れると、姿見の前のドレッサーチェアに座るよう、促します。
お読みいただき、ありがとうございます!
次回は明日、8時頃に「ど、どうしたのでしょうか?」を公開します♪