34:完全に忘れていました
「クロード様は、背中に火傷の痕がありますよね? それは今、薔薇のような形ではありませんか?」
「いや、そんな火傷の痕は、とっくに消えたが」
えええええ!
夢キスの運営さん!? これはどういうことですか!?
消えたって……。設定、変えてしまったのですか!?
「火傷の痕が、何か気になるのか?」
「い、いえ、なんでもありません。それよりもその、えーと、その、はい。あの、ブーケ、見つけていただき、ありがとうございました」
「うん。見つけることが出来て良かった」
クロード様が、あの少年のような笑みを浮かべ、私を見ています。立派な大人の方なのに。この時ばかりは、同年代に思えてしまいます。
そこでゆっくり馬車が止まりました。
屋敷に帰って来られたと、安堵の気持ちが広がります。それにしても、あんなにおめかしして出かけたのに。ドレスがボロボロで、お父様もお母様も驚いてしまいますね。
クロード様が先に馬車を降りられました。そして両手を広げ、私を待ってくれています。でもさすがに両親の前で、クロード様に抱きかかえられるのは……。
「クロード様、その、もう、大丈夫です。両親も、クロード様に抱きかかえられていては、腰を抜かして驚いてしまいます」
「リラ、君は自分が裸足であることを、忘れていないかい?」
……!
完全に忘れていました。
森の中では走りにくいと、ハイヒールを脱いでしまったことを、今、思い出しました。
「それにここは、君の屋敷ではない。僕の屋敷だ」
!? クロード様のお屋敷……!?
驚き、そして「?」で、頭の中がいっぱいになりました。
そんな私の顔を見て、クロード様が、優しい笑顔を浮かべます。
「裸足でドレスもボロボロ。そんな姿の君を、ご両親の元に送りとどけたら、僕の人格が疑われてしまう。屋敷には妹のドレスがある。君の好みにあうか分からないが、それに着替えて欲しい。着替えを終えたら、アフタヌーンティーとしよう。空腹の君を送りとどけたら、これまた僕の名誉に関わる。すべて落ち着いたら、リラ、君の両親がいる屋敷へ送りとどけよう。君の両親には、僕の屋敷へ招待したと連絡しておくから。安心するといい」
クロード様の説明には、すべて納得です。
私自身、こんな姿で帰宅したら、両親が驚くと考えていたところなのですから。でも昼食を食べ損ね、空腹であることは……今になって気づきました。
きちんと身支度を整え、帰宅する方が、両親も安心のはず。それにちゃんとクロード様に招待されていると分かれば、両親も余計な心配をせずに済みます。
「クロード様、諸々ご配慮、ありがとうございます。すべてクロード様のおっしゃる通りですね。お言葉に甘えていいのでしょうか?」
「勿論だ。こちらこそ、勇敢なレディを招待できて、嬉しく思う」
またもクロード様は、少年のような笑みを浮かべ、私をキュンとさせます。
「では、裸足の姫君、こちらへ」
もうそう言われてしまうと、お姫様抱っこを拒めません。人のお屋敷に裸足で入るなんて、日本ではそれが正解でも、ここは違うので……。申し訳ないと思いつつ、再びクロード様に抱きかかえられ、お屋敷にお邪魔させていただきました。
改めて馬車から降り、エントランスに入ると。
とても洗練されていました。シャンデリアも、とても美しいですし、待ち受ける召使いの数も、我が家とは違います。置かれている調度品も、何ランクも上に思えました。
「アンヌ、彼女を入浴させ、身支度を頼みたい」
「かしこまりました。クロード様」
アンヌさんという侍女に先導され、クロード様に抱きかかえられたまま、客間へと向かうことになりましたが……。仕方のないこととはいえ、大変恥ずかしい状態です。早く着替え、自分で歩きたいと思わずにいられません。ただ、自分で歩く必要がないので、いろいろなものをじっくり見ることが出来ました。廊下を飾る絵画、花、彫像など、どれも一級品であることが、見てとれます。窓から見えるお庭も、大変広々としていました。さすが公爵家と感心していると。
「クロード様、こちらのお部屋へ」
アンヌさんがドアを開け、中に案内されました。
このあともう1話公開します!
12時台に公開します。