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３３：僥倖です＊・'゜☆。.＊

「右膝に怪我はないか、確認しても？」

「ええ、見ていただけますか？」

膝を見るだけで、ここまで恐縮されるとは……。なんだかドキドキしてしまいます。とっと確認いただき、この気まずさから、解放して差し上げないと。そう思い、ドレスの裾を持ち上げます。

「右膝は少し赤いですが、怪我はないですね。打ち身でしょう」

クロード様は安心した顔になります。安心と同時に、私のむきだしの脚に頬を赤くされ、それを見て私も、自分の顔が熱くなるのを感じます。慌ててドレスを元に戻しました。その瞬間。ドレスの裾が、本当にボロボロになっていることに気づきます。

「手の方は大丈夫ですか？」

そう言えばリビオ様は、私の手を見て、涙をこぼしそうになっていました。右手は、リビオ様が汚れを綺麗にふき取ってくれています。でも左手には……土がついていました。汚れた左手に視線を向けていると、クロード様が遠慮がちに私の手をとります。

「怪我はないようだ。土で汚れているだけ。拭き取ろう」

濡れタオルで、綺麗に拭ってくださいました。

「ありがとうございます」

「こんなに自分を犠牲にして。なんの訓練もしていないのに。よく立ち向かおうとした」

「確かにそうですよね。武術の覚えなど、何一つないのに。ブーケでご覧になった通り、筋力がなく、うまく投げることもできません。ですから石も投げましたが、命中させようと思わず、当てずっぽうで投げました。当てずっぽうで投げたら命中するって、笑うしかないですよね」

苦笑する私に対し、クロード様は真剣そのもの表情です。その表情のまま、私の両手をとると、静かに口を開かれました。

「僕は世の中の女性のことを、そこまで知っているわけではありません。ただ、リラぐらいの年齢で、武術とは無縁の令嬢が、人さらいの現場を目撃したら。見てみぬをフリをする。そして逃げ出す。僕はそれが悪いこととは思えない。あの数の男に取り囲まれたら、お終いだ。非力な令嬢が身を守るため、その場から逃げる。むしろそれが当然。それなのにリラ、君は逃げなかった。逃げなかったどころか、男達を追跡した。しかも自分に気づき、探してくれるだろう人のことを考え、荷物を残しながら。さらに石を投げ、男達の気を引き、少年をなんとか助け出せないかと奮闘した。リラ、君は本当にすごいよ。その勇気も。知恵も。行動力も。尊敬するよ」

これにはもう、驚きしかありません。

剣の騎士団の団長である、あのクロード様です。夢キスでも大人気のクロード様。そのクロード様に、こんなに絶賛されるなんて。モブの私には、想像できなかった僥倖です。

「最初は、その可憐な姿に、目を惹かれた。こんなにも愛らしく、引く手あまただろうに。僕と同じように、あの部屋に逃げ込んでいる君に、興味を持った。会話をすると、君はなんだか不思議（ミステリアス）で、さらに関心を持つことになる。そして僕のトリコロール剣術祭への招待も受けてくれて……。贈った花にも、素敵な手紙で応えてくれる。昨晩の手紙には、ラベンダーの香りがしていた。リラ、君のことを考えると、眠れないのではと思ったが……。あのラベンダーの香りのおかげで、ぐっすり眠ることができた」

私のことを考えると、眠れない……。その気持ちはよく分かります。直前での招待になったので、ドレスの用意は間に合うか、ブーケはちゃんと調達できているか、それは心配だったことでしょう。手紙にラベンダーの香りを移して、正解でした。

「ブーケを投げるリラを見た時は、心臓が止まるかと思ったよ。僕は君を受け止めるつもりで、駆け出していた。君がそこまでして投げ入れてくれたブーケを、なんとしてでも見つけたいと思った。でも、僕は落下しそうになるリラに釘付けで、肝心のブーケを見ていなかった。だからリラのブーケがどれかなんて、分からなかった。……賭けだった。リラだったらどんなブーケを作るか、懸命に想像した。沢山あるブーケを見た時、これは無理だと思ったが……。一輪だけの赤い薔薇。リボンの結び目の赤い薔薇。それを見た瞬間、これはリラだと思えた。それが正解で、とても嬉しかった」

クロード様は私から手をはなし、膝にのせているブーケに触れていらっしゃいます。一方の私は……。夢キスの情報で、あのブーケにクロード様が気づいたのだと分かり、罪悪感に苛まれます。ズルをしてしまったと。

懺悔の意味を込め、打ち明けることにしました。

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このあと　１１時台に、もう１話公開します！

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