31:宣戦布告(・・?
「おっ、この方が勝利の女神か! 頭のいいお嬢さんだ。ハンカチ、オペラグラス、日傘、薔薇、バッグ。これがあったおかげで、犯行現場に辿り着くことが出来た。それにリビオによると、彼女は果敢にも、石を男達に投げつけたというじゃないか。それは見事男の背中に当たっている。もし彼女がいなければ……。リビオは壺にいれられ、さらわれていた。そして今頃どこにいるか分からず――という状態だろう」
この声は!
決勝戦で、クロード様と激戦を見せたヘクトル様!!
ヘクトル様は、自慢の槍を両肩にのせ、柄の部分に自身の手を乗せていらっしゃいます。
目を引くのは、その瞳。
碧眼とも違う、トルコ石のような瞳の持ち主で、その目は千里を見据えると言われています。髪の色は、その瞳の色を淡くしたような色合い。肌はよく日焼けしており、引き締まった体つきをされています。彼もまた夢キスにおいて、攻略対象にして欲しいと、ファンから切望されている一人です。
「あの、すみません」
凛とした声に、ロジェ様、ヘクトル様が振り返りました。クロード様と私は、前方を見ます。そこには、二人の騎士に挟まれて歩く少年の姿が見えました。
意志の強さを感じさせるルビー色の瞳、
キラキラに輝くブロンドの髪。
悪役令嬢さんの弟さんです!
「僕の窮地を救ってくださり、本当にありがとうございました。僕の名は、リビオ・マダレーナ・バティアです。騎士見習いをしています。あなたのことは一生忘れません。レディ、お願いです。お名前を教えていただけないでしょうか」
まだ12歳なのに。
騎士見習いとして凛とするその姿は、悪役令嬢さんを彷彿とさせます。可愛らしい騎士見習いさんに、思わず頬が緩みます。
「リビオ様、私はアルダン伯爵家の長女リラと申します。あなたのお姉さまと同じ、セボン王立高等学園に通っています」
「!! そうなのですね。お姉様の……。あなたへの忠誠の証を示したいのですが」
リビオ様が真摯な表情で、私を見上げます。
忠誠への証……。
くるまれていたマントから手を出すと、リビオ様は少し背伸びをし、私の手をとります。クロード様より、まだまだ背の低いリビオ様。抱きかかえられている私の手をとるのも、一苦労のようです。それでも恭しく私の手を取り……。手の甲にキスをすると思ったのですが。
リビオ様は、白シャツに黒いズボンというお姿。そのズボンのポケットからハンカチを取り出すと、私の手を丁寧に拭いてくださいました。
「僕のせいですね。雪のように美しい肌が、汚れてしまいました。本当に申し訳ないです」
ルビー色の美しい瞳に、涙が浮かんでいます。
泣き出しそうな天使の姿に、私の方が悲しくなってしまいました。
「リビオ様、お気になさらないでください。私が運動不足で転んだだけですから」
歯を食いしばり、顔をあげたリビオ様は。
「……訓練を積み、立派な騎士になりますから。どうか、その時まで。待っていてください」
そう言ったリビオ様は、今度こそ私の手を取り……。
甲にキスをすると、とても綺麗にお辞儀をしてくださいました。そして天使のような笑顔を浮かべ、待ってくれている騎士様の方へと駆けていきます。
「クロード、大変なことになったな」
ヘクトル様がニヤニヤと笑い、ロジェ様が「ヘクトル、余計なことを」とヘクトル様をたしなめました。一方のクロード様は。
「……まさか12歳の騎士見習いに宣戦布告されるとはな。どうしたものか……」
宣戦布告?
リビオ様が?
立派な騎士になる……つまりは団長の座を目指している――ということなのでしょうか。
「この国で最強の、剣の騎士団の団長が! 12歳の騎士見習いにタジタジとはな。これはいい酒の肴になりそうだ。行こうぜ、ロジェ」
「クロード、捕えた者たちは、私とヘクトルで取り調べをしておく。お前はリラ嬢を連れ、もう帰るといい。取り調べの結果は、すぐに報告させるから」
「ありがとう、ロジェ。その言葉に甘えさせてもらうよ」
ヘクトル様とロジェ様の後ろを、捕らえられた男達が、騎士によって連行されていきます。私に襲い掛かった三人のうち二人は、担架で運ばれていました。
私に馬乗りになった男は、意識を取り戻していましたが、チラッとクロード様を見た後は……。顔が青ざめ、俯いたまま、連行されていきます。クロード様から受けた柄頭の打撃が、よほど効いたようです。完全に戦意喪失しているようでした。
このあともう1話公開します!
12時台に公開します。