28:これは、一大事です(ノ><)ノ
見るからに悪そうな顔をした複数人の男性が、ブロンドの髪の少年を、さらおうとしているのです。少年は猿轡をされ、さらに両手と両足がそれぞれロープで縛られています。
これは、一大事です!
周囲に騎士様がいないか探しますが、誰もいません。でも男達は少年を連れ、どんどん遠ざかって行きます。このままでは少年が、さらわれてしまう――!
どうしましょう!
騎士様を探していたら、絶対に少年は、連れ去られてしまいます。かといって私が駆け付けたところで、できることは……悲鳴をあげるぐらいでしょう。でもそんな声、離れた場所にいる騎士様には、届かないでしょう。ならば男達が少年をどこへ連れ去ろうとしているのか、それを探ることができれば……。
懸命に、男達の後を追いかけます。
男達は少年を抱えており、かつ少年も暴れているようで、そこまで早く移動していません。それでもドレスの私と男達とでは、どうしたって距離は縮まりません。でも見失うことなく、距離はありますが、追いかけることはできています。気づけば緩やかなスロープをのぼりきり、地上へ出ていました。どうやら荷物の搬入路となるスロープを、のぼりきったようです。
さすがに、これには息が切れます。しかし少年を見失うわけにはいきません。必死で追い続けます。地上へ出たので、誰かいないかと目を凝らしますが……。幌馬車や荷馬車は見えますが、人の姿はありません。
その時です。
男達の一人が、こちらを振り向きそうになりました。
慌てて、私は幌馬車の影に隠れます。
しばらくそのまま隠れ、そうっと様子を伺うと。
男達は少年を、大きな壺の中に押し込めようとしています。
でも少年は、必死に抵抗していました。
なんとか助けたい。
その一心で、地面に落ちている石を拾い上げました。
いや、こんなに重い石、ブーケでさえまともに投げられなかったのです。無理でしょう。代わりに、手の平に収まるぐらいの石をつかみ、狙いを定めようとしましたが。狙いを定め、ブーケの投げ入れに失敗したのです。ならば。
もし男達に当たらなくても、石が飛んでくれば、彼らに隙ができるはずです。その間にあの少年が暴れ、起死回生につながるかもしれません。それに誰かいるとなれば、男達を足止めできるかもしれないのです。そして私は控え室で、クロード様に会うはずでした。そこに姿を現さなければ、何かあったと気づいてくれるかもしれません。
実はそれを期待して。
ここまでに来る道中、ハンカチ、オペラグラス、日傘、カチューシャの薔薇、バッグを置きながらやってきました。後は金貨の入った巾着、そしてブーケが手元にあります。つまり時間稼ぎができれば、私が落としていった物を拾い、ここまで来ることが可能になります。
よし。
決意を固め、ブーケを幌馬車の車輪のそばにおき、石を投げ、すぐにしゃがみます。
「痛っ!」
男達の一人に当たったようです。心臓がドキドキします。
「なんだ!?」
「わからねぇ、何か背中に当たった」
「気のせいじゃないか?」
「おい、小僧、暴れるな」
成功です!
心臓がドキドキしています。これはどうやら成功した喜びで、ドキドキしているようでした。少年が暴れ、男達がそれを押しとどめようとする声が、聞こえています。
もう一発。時間稼ぎに。
地面に落ちている石を拾い、握りしめます。
ゆっくり立ち上がり、男達の方を見た瞬間。
最悪です!
男達の一人と、目が合いました。
つまり、こちらを見ている男がいたのです!
これは大変です。
私は慌てて駆け出します。
本当は、観覧席の方に戻ればよかったのでしょう。
でもそちらへ向かうと、思いっきり男達に姿をさらすことになります。仕方ないので、森の方へと駆け出しました。
「おい、待て、女!」
「待ちやがれ!」
男達の怒号が聞こえ、震えが走ります。
しかも森の中は、ハイヒールで走るような場所ではありません。
呆気なく追いつかれ、捕まってしまいました……。
このあともう1話公開します!
12時台に公開します。