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２７：穴があれば入りたいです

「でも良かったですね、クロード様に選ばれるなんて。今年もクロード様のブーケの数は、すごいことになっていましたから。幌馬車でお屋敷まで運ぶ必要があるぐらい、大量です。でもまあ、あのブーケの投げ入れは、劇的でしたから。目につきますし、印象に残りますよね」

騎士様の言葉に、ジョフリーさんも同意を示します。

「あれほどインパクトのあるブーケの投げ入れは、ボクも初めて見たよ。まず、ブーケを投げようとして、落下しそうになる女性。これまで見たことがない。しかもそれをやっているのが、ロイヤルボックスの女性ときた。一般観覧席では、散々何か言いかけただろう。でもロイヤルボックスの女性がそんなことをしているとなると、ヤジることもできない。しかもその落ちそうになっている女性を、王太子様が抱きとめている。こうなると、もう口をつぐむしかない」

あああああ、どうしましょう。

そうです。そうなのです。

そんな醜態を、あの場でさらしていました。

もう、穴があれば入りたいです。

「でもおかげでクロード様の目にも、バッチリ留まったわけですよ。しかもあなたのブーケは、珍しい。青系の花の中に、一輪だけ赤い薔薇がある。だからクロード様も、そのブーケをすぐ見つけ出すことができ、即決されたのですよ。落ちそうになりながらも、投げ入れた甲斐がありましたね」

……！

なるほど。理解できました。

私は夢キスの知識を活用したことを、後ろめたく感じていましたが、そうではなかったのですね！　私がブーケを投げ入れようとして、落ちそうになったので、目についたのですね……。そしてその時、投げ入れたブーケも目にしていた。落ちそうになってまで、必死の思いで投げ入れたブーケ。選んであげたい。そんな優しさで、私のブーケが選ばれたと理解しました。少し安堵すると共に、あの姿をクロード様にも見られていたのかと思うと……。恥ずかしい気持ちで、いっぱいになります。

「おしゃべりに花を咲かせたいところだが。控え室への誘導が始まっているのでは？」

ジョフリーさんの言葉に、騎士様がハッとした顔になり、私の腕を取り歩き出します。

私は慌ててジョフリーさんに「ブーケをとってくださり、ありがとうございました！」と伝えました。ジョフリーさんは「どういたしまして」と手を振り、去っていきます。

クラスメイトですが、ジョフリーさんとまともに話すのは、これが初めてです。でも話してみると、とてもフレンドリーで驚きました。しかもちゃんと私が誰であるか分かっていらっしやるところも、ビックリです。

「この列に、このまま並んでいてください。順番に誘導しますから」

騎士様に案内されたのは、控え室につながる、地下の廊下です。

この広場は元々、前世で言うところのコロッセオのようなものがあった場所だと聞いています。ただ、それは本当に人間同士が殺し合うような血生臭い場所だったようで……。時代が変わった後、その建物は撤去されました。そして市民の憩いの場となる広場として、生まれ変わったのです。

ところが地下部分については、コロッセオのような建物があった時のものが、そのまま残されていいました。少し薄暗く、じめじめとして、なんだか怖く感じてしまいます。

控え室に招待されている女性は、全部で30名。見る限り、私は最後から三番目。まだ先頭の女性は、案内されていません。これはまだまだしばらく、待つことになりそうです。

そう思った瞬間。

とても恥ずかしいのですが。

レストルームに行きたくなってしまいました。仕方ないので、少し離れた場所にいるに騎士様に、声をかけます。レストルームに行きたい旨を伝えると、快諾いただけました。ほっとして行列を離れ、レストルームの方へと歩いて行きます。