25:お天気屋
紅茶を飲みながらそんなことを考えていると、休憩時間が終わりました。広場では、表彰式のため、レッドカーペットが敷かれています。楽団による演奏が始まると、赤・白・青のチームごとに、騎士の入場が始まりました。国王陛下とトロフィーを持つ騎士が、レッドカーペットの上を歩いて行きます。
3位から表彰が始まり、国王陛下から、トロフィーと賞状が授与されていきます。結局、上位3名は、騎士団長で占められることになりました。でも毎年こうなるわけではありません。過去には槍の騎士団の騎士が優勝したり、弓の騎士団の副団長が優勝したりすることもありました。ですから今年は、3つの騎士団の団長が、よっぽど優れていた――ということなのでしょう。
個人の表彰が終わると、次はチームでの優勝が発表されます。その結果は、白チームの優勝。白チームは、ヘクトル様が所属していました。惜しくも決勝戦で負けたヘクトル様ですが、チーム優勝に大喜びです。白チームの10名には、国王陛下からメダルが付与されました。
こうして無事、トリコロール剣術祭が、終わったわけですが。
まだ大きなイベントが、私には待っています。
そう、クロード様が私のブーケを選んでくれました。
つまり控え室へお邪魔するという大イベントが、この後待っているのです。
でもその前に。
恐る恐るで、ヒロインさんに声をかけます。
「あ、あの、すみません……」
ヒロインさんは、クレマン様と話している最中でした。それは分かっていたのですが。今を逃すと、謝罪のチャンスはないでしょう。清水の舞台から飛び降りる覚悟で、声をかけました。モブにとってヒロインに声をかけるのは、これぐらい勇気が必要なのです……って私だけかもしれませんが……。
ゆっくりこちらを振り返ったヒロインさんは……。
なぜかニコニコしています。
ブーケが当たった時のヒロインさんとは、別人過ぎて、逆に恐怖で背筋が凍り付きます。
「その、先ほどは、本当に、本当に失礼しました。私の腕力がないために、ブーケがあたってしまい、大変申し訳ありませんでした」
「え、全然気にしていませんから~。大丈夫ですぅ~」
それだけ言うと、ヒロインさんはくるっと私に背を向け、再びクレマン様と話し始めました。クレマン様は、私にウィンクで合図を送りますが、何が何だかさっぱりわかりません。
「あなた、気にしないでいいのよ」
悪役令嬢さんが、声をかけてくれます。
「この女狐……いえ、こちらのアメリさんは、お天気屋だから。気にしていると、振り回されるわよ。いつ雷が落ちるから分からないから、とっとお帰りなさい」
な、なるほど。
さすがヒロインさんと、何度も渡りあっている悪役令嬢さんです。説得力があります。
「そうなのですね。教えてくださり、ありがとうございます。それ以前にブーケの件でも助けてくださり、本当に重ねて御礼申し上げます」
そう言って深々と頭を下げると。
「頭を上げなさいよ」と悪役令嬢さんに言われ、顔を上げます。
「あなたのブーケ、クロードに選ばれたのでしょう。良かったじゃない。控え室に行く人は、掲示板のところに集合だから、早く行きなさいよ」
悪役令嬢さんがそう言うと、王太子様は。
「チェスカがブーケを守ったこと、わたしはクロードに伝えさせてもらうよ。もしあの時、チェスカがブーケを守らなかったら……。クロードはこちらの令嬢に、出会えなかったわけだからね。クロードに大きな貸しを作ることが出来た。あのクロードに!」
「もう、リュシーったら。クロードがあなたの言うことをなかなか聞かないのは、あなたが無理難題をふっかけるからよ。嫌がるクロードに舞踏会に来るようにすすめたり、いとこを婚約者にしないかと迫ったりするから。おやめなさい」
お二人はそんなことを言いながら、ロイヤルボックスから立ち上がり、歩き出します。王太子様はしっかりと、悪役令嬢さんのことをエスコートしています。
「なにはともあれ、ごきげんよう」
そう言って微笑む悪役令嬢さんは……。
とっても、とっても素敵でした。
私は一気に、悪役令嬢さんのファンになってしまいます。
このあともう1話公開します!
12時台に公開します。