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２１：謝罪程度では、すみませんわ！

「すごく、痛かったのです！　謝罪程度では、すみませんわ！」

「アメリ、そんなにヒドイなら、救護室へ行こう」

クレマン様が立ち上がり、チラリと私を見て、すぐにヒロインさんをお姫様抱っこしました。ヒロインさんは顔を真っ赤にし「え、それほどでは」と言いつつ、でもそのままおとなしくお姫様抱っこされています。クレマン様はロイヤルボックスをはなれ、私にウィンクすると、救護室へ向かって行きました。

「ほら、あなた、ぼうっとしていないで。早くブーケを投げ入れなさい」

悪役令嬢さんがブーケをひろい、私へ渡してくれます。

慌ててブーケを受け取ると。

「そこからでは届かないだろう。こちらへ来るといい」

王太子様は立ち上がりました。そして階段に設置されている、ロイヤルボックスと貴賓席を仕切る柵の扉を、開けてくださいます。私は王族でもなく、許可もされていません。入っていいのかと迷っていると……。

「わたしが最前列までエスコートする。そうすれば警備の者も駆け付けない」

「それは名案よ、リュシー。さあ、そこのあなた、早くこっちへ」

王太子様が私の手をつかみ、悪役令嬢さんも促してくれます。私はブーケを握りしめ、ロイヤルボックスがあるエリアに入りました。警備の騎士様が何人も、コチラに鋭い視線を送ります。でも王太子様がエスコートしているのです。警備の騎士様は駆け付けることなく、ただじっとこちらを注視しています。

「さあ、こっちへ」

王太子様が、最前列へと誘導してくれました。もう心臓がいろいろな意味で、ドキドキしています。夢キスの王太子様に、エスコートされているのです。しかも私はモブなのに。そして通常では入ることができないエリアに、足を踏み入れているのですから。

「着いたよ。ブーケを投げて。いや、投げなくてもいい。ここなら手をはなしただけで、広場の中に間違いなく落下する」

王太子様の言う通りです。

投げなくても、手をはなせば広場に届くと分かっています。

それでも。

もう既に広場には、信じられない数のブーケが投げ入れられていました。多くの係の騎士様が、ブーケの回収を始めています。そうしないと次の剣術披露に間に合わないからです。

ですから。

気持ちが急いてしまったのでしょう。思いっきり振りかぶって、ブーケを投げました。すると私は観覧席から落下しそうになり、王太子様に抱きとめられる事態に。特別席に座る貴族、ロイヤルボックスの王族の方から、驚きの声が上がります。

「大丈夫か？」

「は、はいっ、すみません！　申し訳ありません！」

私は平謝りですが、王太子様は輝くような笑顔で「無事で何よりだ。さあ、戻ろう」と、何事もなかったように、再びエスコートしてくださいます。王太子様が冷静な対応をしてくださったおかげです。特別席の貴族も、近くに座っていた王族の方も。特に騒ぎ立てることはありませんでした。安堵しながら悪役令嬢さんが待つロイヤルボックスに戻ると……。

「ちゃんと広場にブーケは着地していたわよ」

ブーケの行方を、悪役令嬢さんが教えてくださいます。

悪役令嬢さんの婚約者である王太子様に、ハプニングとはいえ、抱きとめていただくことになりました。そのことを怒られるのでは……そう思っていたのですが、そんなことはありません。それどころか、ブーケがちゃんと広場に落ちたことを教えてくださるなんて……。

悪役令嬢さん、王太子様。

お二人はなんてお優しいのでしょう！

感動でいっぱいになりながら、私は御礼の言葉を繰り返します。

「困っている人がいたら助ける。フランチェスカもわたしも、当たり前のことをしたまでだ。気にすることはない」

「まあ、あなたにアドバイスをするなら。もう少し運動をして、腕の筋力を上げることね」

王太子様と悪役令嬢さんはそう言うと、ロイヤルボックスに座り直します。

夢キスをプレイしていた時。

王太子様は王道の王子様で、優しい方と思っていました。そして今もとても親切にしてくださって。その一方で、悪役令嬢さんの一連の対応には、本当に驚いてしまいました。私がモブだから優しくしてくれるのでしょうか？　そうも思いましたが……。

悪役令嬢さんは、別に悪人ではないのでしょう。自分の婚約者である王太子様に手を出すから、ヒロインさんといがみあっているだけで。そんなことをされなければ、普通にイイ人なのではないか。