20:前世でも運動音痴でした。。。
「あっ」
思わず声が小さく漏れました。
既に音楽も流れているため、私の声など気づく人はいません。それでも思わず、手で口を押さえます。誰も私を気にしていないと確認してから、ゆっくり手をはなし、改めてオペラグラスを見ました。
まるで、天使のような美しさの少年がいます。
姉である悪役令嬢さんと同じ、ルビー色の瞳。動きに合わせ、陽の光を受けたブロンドの髪が、キラキラと輝いています。年齢は12歳でしょうか。まだあどけなさを感じるのに、凛とした目をしています。さらに動きにもキレがあり、体が無駄に揺れたり、ぐらついたりすることもありません。体幹がしっかりしているのでしょう。これは……将来有望な騎士見習いです。
音楽が終わり、演舞が終わると、割れんばかりの拍手が起きました。ジュニアの部による剣術演舞でも、ブーケの投げ入れが認められています。ただ、控え室招待はありません。それでもものすごい数のブーケが投げ入れられ、その回収には、これまで以上に時間がかかっていました。
ようやくブーケの回収が終わり、8組目の剣術披露が再開されます。同時に、またもや女性陣が動き出しました。9組目が終わり、10組目――そう、クロード様の剣術披露が間もなく始まるのですが、席が綺麗に埋まっています。つまり、うろうろしている女性の姿はありません。そしてラッパの音が鳴り、クロード様と対戦相手が広場に姿を現すと。
まるで試合の勝敗がついたかのような、拍手喝采が沸きあがりました。そのざわめきは、なかなか収まりません。その様子に、改めて剣の騎士団の人気を思い知ります。いえ、これは、剣の騎士団の団長クロード様の人気です。
試合が始まると、もっとすごい状態になりました。それは、クロード様の動きが俊敏であり、対戦相手の動きがスローに見えるという、異常事態に対する興奮です。対戦相手は、なんとかその動きに追いつこうとするのですが、それはかないません。さらにクロード様が繰り出す突きや連続攻撃を防御しようとするのですが、間に合わず……。もうどうにもならず、対戦相手は、これまでで最速で降参してしまいました。
これで規定の剣術が披露できていたのかと、心配なりましたが……。クロード様の勝利です。つまり剣術も、見事披露できていたのです!
これにはもう、観客は熱狂の渦で、悲鳴まで聞こえます。
会場の熱気に圧倒されていましたが、ブーケを投げ入れなければなりません。気づくと皆、興奮し過ぎてブーケのことを忘れているようです。私は立ち上がり、思いっきりブーケを投げたつもりだったのですが……。
前世でも運動音痴でした。
特に、球技が苦手。ボールを投げても、明後日の方向に飛んでいってしまいます。そして今回は……。
最悪が重なりました。
正面に向け、ブーケを投げたつもりが、それは右方向に飛んでいき、しかも飛距離が……。ゼロに近い状態です。つまり私が投げたブーケは、右斜め前のロイヤルボックスに座る、ヒロインさんの頭を直撃しました。
「ちょっと、何!?」
ヒロインさんの鋭い声に体が震え、それでもなんとか「ごめんなさい」と叫びます。体を折り曲げ、謝罪した瞬間。ロイヤルボックスの床が見えました。そこにはブーケが転がっているのが見えます。そしてそのブーケを踏みつぶそうとする、赤いパンプスが見えました。
自分の心臓を、踏みつけられるような気持ちになりました。
でも。
ブーケは踏みつけられず、代わりに赤いパンプスの底が踏みつけているのは、美しい白い手の甲です。驚いて顔を上げると。
「おやめなさい。そんなことをするのは」
「はあ!? フランチェスカさまには関係のないことですよね? このブーケは私の頭を直撃したんですよ!?」
「そうね。でもトリコロール剣術祭で、ブーケを投げるのは恒例行事。頭にぶつかることだってありますわ。でもわざとすることではない。それにブーケは花。踏みにじるようなものではないわ。謝罪されているのだから、許してあげなさいよ」
驚きました。
悪役令嬢さんが、私のブーケを守ってくださっています。しかも、ヒロインさんを諭してくださるとは……。でもヒロインさんは、怒り心頭です。
お読みいただき、ありがとうございます!
次回は、明日8時頃に
「謝罪程度では、すみませんわ!」を公開します♪
【完結のお知らせ】
★本日エピソード1完結★
『悪役令嬢完璧回避プランのはずが
色々設定が違ってきています』
https://ncode.syosetu.com/n6044ia/
└エピソード1で物語としてまとまっています。
ハッピーエンドです。
一気読み、かなりおススメ♡
*~*☆*~*~こんなお話です*~*☆*~*
8歳の時に、乙女ゲームの世界に転生し
自身が悪役令嬢であることに気づいた
伯爵令嬢ニーナ。
悲惨な末路は回避したい!
完璧な回避プランを考え、実行に移した。
その結果。
どうやら悪役令嬢にならないで済みそう。
でも。
パッケージに描かれた悪役令嬢ニーナは
魔力が強く完璧な美貌の持ち主。
自分はニーナなのだし
成長すれば勝手にこの姿になると
思っていたのだが……。
なんだか設定がいろいろ違っている!?
え、どうして……?
*~*☆*~*~*~*☆*~*~*~*☆*~*~
初挑戦の悪役令嬢ものです。
コミカル、時にホロリ、途中から甘々溺愛展開。
応援してくれる読者様に支えられ
最終回前に既に累計100000PV突破!
ぜひぜひ明日の更新をお待ちいただく間
『悪役令嬢完璧回避』もお楽しみください
ヾ(≧▽≦)ノ