1:モブにも回避すべきフラグがあった件
転生した世界で焼死する。
鮮烈な体験でした。
もう二度目はないと思ったのですが。
目が覚めたのです!
驚きました。
今度こそ、天国に召されたのかと思ったのですが。
違います。
なんと、火事が起きる前日に目覚めることができたのです!
これはいわゆるやり直しができるチャンス。
モブの私にこんなチャンスが訪れるとは……!
これは全力で、火事を阻止しなければなりません。
モブだから回避すべきフラグなどない。
悪役令嬢さんと違い、モブはフラグとは無縁!
この考えを改める必要があると実感しました。
ですから。
頑張ることにしました。
「リラ様、とってもお似合いですよ。旦那様がリラ様のためにと、お仕立てくださっただけありますね。とてもお美しいですわ」
ドレスを着せてくれた侍女のココに褒められ、私は嬉しくなってしまいます。
今着ているドレスは、淡いラベンダー色のチュールドレスです。ドレス全体を包むレースには、ハンド加工で繊細な花と宝石が散りばめられています。首元にはアメシストのお花モチーフのペンダント。耳にはペンダントとお揃いのイヤリング。お化粧もして、睫毛もクルンと上向き、唇も潤いたっぷりで、とっても素敵に見えます。
「リラ様、舞踏会、楽しんできてくださいね」
「ありがとう、ココ」
そう。
今日は、あの恐ろしい火事が起きた当日です。
私は前世で乙女ゲーにハマりすぎ、事故に遭いました。
そして転生したこの世界で、読書にハマりすぎ、みんなを巻き込み死んでいます。
もう同じ過ちをするわけにはいきません。
一家全員焼死フラグを回避するため、どうすればいいのかと考えました。そこで普段の私なら絶対にしないことをすると、決めました。
そう、舞踏会へ参加すること。
同じ年頃の女子はみんな、舞踏会へ足を運んでいます。でも私はその時間、自室に引きこもり、読書をしていました。その読書の結果が……。一家全員焼死です。
「リラ、楽しんでくるのだよ」
「気をつけてね、リラ」
「お姉様、いってらっしゃいませ!」「いってらっしゃいませ!」
エントランスで両親と二人の弟が見送ってくれます。
この優しい家族を守るために。
私は馬車に乗り込み、舞踏会へと向かいました。
◇
久々の舞踏会。圧倒されます。
女子の皆様は本当にお美しく、ホールに色とりどりの花が、咲き誇っているように見えました。男子の皆様は、全員王子様に見えるぐらい、素敵に見えます。前世の「スーツを着ると3割増し」という言葉は本当ですね。
さらに会場となっているホールのシャンデリア、飾られているお花、壁を飾る絵画、彫像も本当に素晴らしいです。
ひとまず一曲目のカドリールがスタートすると、私はこっそり別室へ移動しました。移動した先のお部屋には、ビスケットやマドレーヌなどの焼き菓子、アイスクリーム、可愛らしい砂糖菓子、色々な種類のパイなどの軽食と、飲み物が用意されています。本来、ダンスで疲れた皆さまが食べる物なのですが……。
私はこれが3度目の舞踏会。前回はお母様も一緒だったので、誰それとダンスするといいわよとアドバイスされ、とても忙しく過ごすことになりました。でも今回、お母様もいないので、誰とダンスをすればいいかも分かりません。かといって、壁の花となり、ぼーっと立っているのも、勿体ないです。せっかく美味しい軽食が用意されているのですから。楽しませていただくことにしました。
この別室にいるのは今、私だけ。貸し切りです。
どのお食事をいただくのか、ゆっくり考えました。
甘い物は後半。
最初は一口サイズのサンドイッチを、いただくことにします。
サンドイッチは、鴨肉や子羊のカツレツがサンドされた、贅沢なものばかり。美味しくいただくことができました。お酒はまだ飲めないので、ザクロジュースを手に取りました。この飲み物は、ワイングラスにはいっているので、一見すると赤ワインを飲んでいるように見えます。ちょっと大人気分で飲んでしまいました。
次は何を食べましょうか。
そう思い、軽食が並べられたテーブルに、再び近寄ったところ。
「これは驚いたな。僕と同じ考えの、レディがいたとは」
このあと12時前後にもう1話公開します!