18:これはもしや……(・O・!
観覧席の入口を見つけ、招待状を提示し、中へと入ると……。席は階段状に配置されており、前方三列はロイヤルボックス、四列目から最上段までが、貴賓席です。左右の席は特別席で、広場を挟んで対面の席が、一般観覧席になっています。
私の席は四列目。
貴賓席の中でも、一番観覧しやすい席です。続々と観客が入って来て、私の右の席は、トークハットのベールで顔を隠す女性で、真紅のドレスを着ていらっしゃいます。胸元が大きくあき、目が吸い寄せられてしまいそうな谷間が見えていました。左にはオフホワイトのドレスを着た、金髪の女性が着席されています。お二人とも私より年齢が上で、とてもお美しい方です。
前方のロイヤルボックスを見てみると……。
三列目の、私の右手斜め前に座る女性は……!
ピンクブラウンの髪をポニーテールにして、宝石のついたピンクのリボンでまとめ、ドレスは髪のリボンと同じ、ピンク色です。首には黒のチョーカー。耳にはリボンがついた大粒のピンク真珠が揺れています。
これはもしや、ヒロインさんではないでしょか!?
ということは……。
サラサラの長髪のプラチナブロンドが見えます。特徴のある耳も、見えました。リーフグリーンのフロックコートも見えています。間違いありません。エルフのクレマン様です。
「このブーケは弟用ですわ。気になさる必要なんてないのに」
「でも私はフランチェスカ、君の婚約者だから」
この声は、悪役令嬢さんと王太子様!
「ちょ……なんでかしら? なぜあなたがそこに!?」
ヒロインさんを見つけた悪役令嬢さんが、わなわなと震えていらっしゃいます。
対するヒロインさんは、扇を口元にあて、余裕の笑みです。
「こちらの特別顧問のクレマン様の招待で。正当な権利でここに座っていますが、何か!?」
「……まったく、利用できるものは何でも利用するのね。本当に、最悪ですわ」
悪役令嬢さんはため息をつくと、王太子様を見ます。
そして耳元で「私があの女狐の隣に座りますから。リュシーは通路側の席で」と囁かれます。すると王太子様は「でもチェスカ、あの女が隣では、集中できないのでは?」と、悪役令嬢さんに尋ねます。悪役令嬢さんは王太子様の耳元から顔をはなし「構いませんわ。弟の演舞の時だけでも、しっかり見ることできれば」と言い、ヒロインさんの隣の、ロイヤルボックスへと腰をおろします。
「あの、フランチェスカ様。そちらの席は、王太子様の席ではなくて?」
ヒロインさんが、こわ~い顔で悪役令嬢さんに尋ねました。
すると悪役令嬢さんは、肩眉をくいっとあげ、答えます。
「ええ、そうですわね。でもこちらの席の方が見やすいので、リュシアン様が代わってくださったの。わたくし、今日は弟の応援で来ていますから。弟はジュニアの部で、剣術演舞に出る予定ですので」
「そんな、こっちでしょうとあっちでしょうと、たいして変わらないでしょうが!」
今にも噛みつきそうなヒロインさんに、クレマン様が声をかけます。
「アメリ、問題があるようだったら、僕が席を変わりましょうか?」
「!? ま、まあ、クレマン様ったら、お優しいですわ。でもそんな気遣いは無用です。フランチェスカ様はクラスメイトで、仲良しですから」
ヒロインさんは悪役令嬢さんに背を向け、クレマン様と話し始めました。
一方の悪役令嬢さんと王太子様は……。
「フランチェスカ、これを」
「オペラグラス? わたくし、自分のがありましてよ」
「そうか。ではこれを」
「ハンカチ!?」
「そう。それでこれを」
「メレンゲ菓子!? ドレスが汚れないよう、ハンカチをしき、このお菓子を食べろと?」
王太子様はコクリと頷きました。
すると悪役令嬢さんは「別にお菓子を今、食べたいわけではないのですが……」と言いつつも、王太子様が差し出すメレンゲ菓子をつまんでいます。
驚きました。
悪役令嬢さんと王太子様は、クラスが違います。普段、二人がどんな様子なのか、私は知りませんでした。夢キスをプレイしていた時も同じです。ヒロイン目線になるため、悪役令嬢さんと王太子様が、どのような会話を交わしていたかなんて……。ほとんど目にすることがありませんでした。でも今の様子を見る限り、悪役令嬢さんと王太子様は、うまくいっているように思えます。
……ヒロインさん、王太子様の攻略は、無理なのではないでしょうか……?
思わずヒロインさんの後ろ姿に目をやった時、ファンファーレが響きます。
いよいよ、トリコロール剣術祭の始まりです。
お読みいただき、ありがとうございます!
次回は明日、8時頃に「トリコロール剣術祭†」を公開します♪