11:私らしいペースで頑張ります
そう。
トリコロール剣術祭では。
応援する騎士さまの試合の後、ブーケを投げ入れることが許可されています。投げ入れるブーケは、その騎士さまをイメージするカラーで作る必要があります。騎士様の髪の色、瞳の色などのパーソナルカラー。家紋、所属する騎士団のシンボルカラーなどで、ブーケを作ってもらうのです。さらに重要となるのが、そのブーケを束ねるリボンです。たかがリボンですが、シルクの生地を使ったり、宝石を埋め込んだり、刺繍をしたりと、皆さん気合が入ります。
そして。
ブーケはもちろん、騎士様がすべて受け取ってくれます。
さらにこの受け取ったブーケの中から、騎士様は一つを選ぶことになっています。選ばれたブーケの贈り主は、剣術祭の終了後、その騎士様の控え室に招待されるのです。そして騎士様に挨拶することが、許可されていました。
ブーケはすべての観客が、つまり一般観覧席からも、投げ入れることが可能です。すなわち、貴族ではない、いわゆる庶民の方でも、投げ入れたブーケが選ばれれば、騎士様と会うチャンスにつながります。過去にこれがきっかけで、商人の娘さんが、騎士様と結ばれたこともあるぐらいです。よって一般観覧席の未婚の女性は、ブーケ作りに熱がこもります。
一方で、貴賓席の女性は、騎士様との絆が試されることになります。事前にどんなブーケを贈るか、騎士様に伝えることはタブーです。そこは騎士道で生きる皆様なので、徹底されています。もし事前にどんなブーケを贈るか話すようなことがあれば……。その二人は別れてしまうとまで、言われています。
人気のある騎士様の試合の後には、とても沢山のブーケが投げ入れられます。その中から貴賓席に座る大切な人からのブーケを、見事騎士様が選ぶことになれば。そのお二人は、永遠に結ばれるというジンクスまであるのです。
ですから、トリコロール剣術祭では、観覧の際の身だしなみはもちろん、ブーケとリボンが重要。よってお父様とお母様が重要だとおっしゃるのは、よく分かるのですが……。
クロード様の招待で観覧するのです。ブーケを投げ入れるのは、勿論クロード様の試合。でもあくまで私は、勝利の女神の役目を果たすだけです。ブーケを選んでいただくつもりはありません。つまり、そこまで気合をいれる必要はないと思うのです。
とはいえ、トリコロール剣術祭は、人気のイベント。当日席なんてありませんし、一般観覧席の倍率は、例年とんでもないことになっていると聞いています。気合を入れすぎる必要はなくても、心のこもったブーケとリボンを用意することは、必要なことでしょう。
ちなみにトリコロール剣術祭の観覧席には、貴族専用の特別席の枠もあります。ですがこちらは倍率ではなく、政治力が物をいう形で……。アルダン伯爵家であれば、特別席を家族分ぐらいなら、確保できるでしょう。でも観戦するべき私が、自室で引きこもり同然の日々を過ごしていたので……。トリコロール剣術祭は、アルダン伯爵家では、ほぼ毎年スルーしていました。
「事前に分かっていれば、準備のしようがあったのだが」
お父様の呟きを、お母様がたしなめます。
「あなた、リラはつい先日まで、部屋から出ようとはしませんでした。でも自らの意志で、舞踏会に行くと言ってくれました。それだけでも奇跡なのですよ。その上で、どのような理由であれ、あのトリコロール剣術祭の貴賓席の招待状を手に入れ、帰宅したのです。褒めることはしても、嘆くことなど、何もありませんよ」
お母様は本当にお優しいです。この優しいお母様を失わずに済んだ。その奇跡に、感謝の気持ちでいっぱいです。
確かに私は先日まで、読書三昧で引きこもっていました。でも今日、舞踏会に行き、攻略対象の皆さんと出会い……。そしてクロード様からは、トリコロール剣術祭に招待いただきました。自分が変わろうと一歩踏み出しただけで、世界はこんなにも優しく私を迎えてくれて……。モブの転生者の私なのに。感動です。
焦るつもりはありません。
私のペースで。
少しずつ、前世とは違う生活を、楽しんでみようと思えました。
何より。
両親は、私の変化を喜んでくれています。
私も変化を楽しみたいと思えているのですから。
頑張り過ぎるつもりはありませんが、ブーケとリボン。
明日、仕立屋さんと花屋さんが来たら、私なりのブーケを用意しようと思えました。
昨日に続き来訪いただけた方、ありがとうございます!
この投稿を新たに見つけていただけた方も、ありがとうございます!!
このあと12時台に、もう1話公開します!
























































