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15.屋敷

「今すれ違った人達の会話聞こえたか?」


「えぇ、何か褒美がどうたらこうたらって言ってたわね。どういうことかしら?」


「さぁ?まぁでも同じ町にいるんだしノワールってやつの顔を一度は見ておきたいところだよな」


「そうね、有名な人のようだし。じゃああたし達もついて行ってみましょうか!」


そして、すれ違った人の後ろについて行ってみると、そこにも人だかりができていた。


「どうだ?我こそはと言う者はここにはおらんのか?この壺を割らずに中の指輪を取り出したものには豪華な商品でも出してやるぞ。どうした、挑戦者はおらんのか?せっかくわしが大盤振る舞いで褒美を出してやろうというのに、仕方のないやつらじゃな!ワッハッハッハッ!」


「そんなの無理に決まってるだろ!!」


「壺に蓋がされているのに、どうやって中身だけ取るんだよ!」


腹が出ていて下品な笑い方をしているのがどうやらノワールのようだった。周りの観客の話を盗み聞きすると、わざわざこのためだけに、壺の中に指輪を入れた後で頑丈に蓋をするよう職人に命じ、この指輪が入っているが蓋がされている壺を造ったんだそうだ。ノワールは毎回お祭りの時に、誰にも成功することができないようなお題を出しては、優越感に浸っているらしい。


だが、


「ふっふっふっ」


つい笑い声が漏れてしまった。

なんて俺達に都合の良い展開なのだろうか。


「はい!」


手を挙げる。


「なんだお前は?挑戦者か?」


「壺の中身を取り出すのはここの目の前じゃなくてもいいですか?」


「ん?お前、本当に挑戦するのか?それはどういうことだ?まぁだが、出来るものならなんでも構わんよ。しかし、失敗した時はその落とし前をつけてもらうが良いのだな?」


「はい。大丈夫です!じゃあ壺を少しだけ借りますね。すぐ戻ってきますので!」


壺を受け取ると、狭い通路の方に行き、リリスを呼んだ。


「リリス。少しそこに立って俺を隠すようにしてくれないか?」


「わかったわ。さっきの刀でやるのね?」


「もっちろん!」


答えながら刀をすとんと下におろすと、力を入れなくても壺は半分になった。


「本当に切れ味は抜群だな。よし、中の指輪は取れたぞ!おぉー!これにも大きな宝石が付いてるじゃないか。これが商品ならいいのにな。なんて、後はくっつけるだけだ。簡単なお仕事で商品をもらっちゃうみたいで悪いねぇ!」


半分になった壺を元のように手でくっつける。


「あれ?壺から手を離そうとしたら一緒に手に付いてくるな?手汗でも付いちゃったのか?」


少し長い時間くっつけてみた壺から手を離すと、また、半分になった壺がそれぞれの手にくっついてきた。


不思議に思ってると通行人の会話が聞こえてきた。


「今日の刀の試し切りみたいなのあったろ?あれ、最前列の観客はサクラだぜ?俺のダチだったんだ。店主から切れ味だけがいい刀をどうにかして売りたいから協力してくれってバイト代をもらったんだってさ。それどころか歓声あげてた観客の半数以上もサクラだったみたいだけどな。あんなのに引っかかるやつも悪いんだろうけど、まぁ斬ってくっつくなんて剣の達人でもありえないわなー!ハハハ」


「ど、ど、どうするのよ!?もう壺を切っちゃってるじゃない!」


俺達は騙されたという事か・・・


「仕方がない・・・こうなったら!!」


俺達はノワールに素直に謝ることにした。


「ほぅ。できなかったと申すか。それにもう壺まで割れてしまっておるではないか。もうこれ以上ここで続けることもできなくなった。せっかくの我が余興を台無しにしてくれたな!どう落とし前をつけてくれようか!!落とし前を明日までに考えておくから、明日、覚悟して我が屋敷に来い!!」


「はい・・・すみませんでした」

「ごめんなさい・・・」


あれ?

気がついたらいつの間にかラナがいなくなっていた。


1人で逃げやがったな、あいつ・・・


怒られて気分が落ちてしまったので、「もう帰ろう・・・」と宿舎に戻ると、ラナはまだ宿舎には戻っていなかった。ラナが戻ってきたのは翌朝だった。


「ただ・・・いま」


俺達は今ノワールの屋敷に向かっている。

すごく気が重い。


朝に戻ってきたラナは、どうやら昨日から寝ていなかったようで、一体どこまで夜通しで逃げていたんだと思ったが、今日はもう宿舎で寝てろと言っても言うことを聞かずに一緒に付いてきていた。


指定された屋敷につくと、メイドに応接室へ案内され、お茶菓子が出された。

応接室の入口の扉をこんこんとノックする音が聞こえてきた。


あぁ、ノワールが来てしまったか・・・


その場でうつむいた。


ノワールは部屋に入って椅子に腰掛けるやいなや、


「こほん。この度の件だが、不問に致そう」


と言って、テーブルの上に乗っていたお茶を飲もうとした。


え!?なんで?


訳が分からず、顔をあげる。

顔を見ると、ノワールはなんだかラナの方をちらちらと見ているようだ。

俺もラナの方を向く。


「それ・・・だけ?この男・・・秘密の・・・店で・・・」


ラナが何かを言いかけると、ノワールは口に含んでいたお茶をごふっ!と吐きだし、襟を正し背筋を伸ばして「・・・わしの持っている屋敷の1つを、自由に使って良い!」と言った。


え?


ノワールはすくっと立ち上がってラナの方に近づいた。

ラナの耳元に手を当てている。


「ごにょごにょ、秘密の店の件は、・・・ラナさん・・・もう勘弁して頂けないでしょうか?また、その事はどうかご内密にお願いします。露見したら、破滅してしまいので・・・」


「それは・・・そちら・・・次第・・・」


この様子から察するに、どうやらラナはノワールの爆弾情報を握ってゆすっているみたいだった。


帰ってくるのが朝だったのはこのためだったのか!

逃げたなんて疑ってごめんなさい。ラナ様!!


俺達はひょんなことから屋敷を手に入れた。

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