11.仲間探し その2
一方その頃、リリスはキュウと酒場にいた。
「キュウちゃん!今日も一段と可愛いわね。こうやって推しを愛でているこの時間が一番幸せ・・・ん?この感じは、また?誰かに見られている気配がするわね・・・」
リリスが視線を感じる方を向くと、そこには珍しい服装をした小さな女の子が座っていた。その子とばちっと目が合った。だが、その子は視線を外そうともしない。そして急にその場で立ち上がると、視線を合わせたまま1歩1歩近づいてきた。
「えっ、何よ、あなた?もしかしてあなたもキュウちゃんを狙ってるの?でもキュウちゃんは渡さないわよ!?」
リリスはテーブルの上のキュウに覆いかぶさるように抱きかかえて威嚇した。
「それ・・・欲しい、です」
「やっぱりキュウちゃんを狙ってたのね!ダメよ!ダメに決まってるじゃない!」
「それ・・・食べないの・・・ですか・・・?」
「あんた何言ってるのよ!?キュウちゃんは食べ物じゃないわ!一体どうやって調理する気なのよ!?」
「違う、です・・・それ・・・」
「えっ!?もしかしてこれの事?」
リリスはお皿に残っているにんじんのようなオレンジ色の野菜を指さした。
「はい・・・食べないなら・・・もらっても・・・いいですか?」
「これは嫌いで残した物だから別にいいんだけど・・・何?あなた、もしかしてお腹空いてるの?」
その子はこくりと頷いた。
「・・・そうなのね。勘違いで威嚇しちゃって悪かったわね。お詫びと言っちゃなんだけど、あなた何でも好きなものを食べなさい。あたしがご馳走してあげるわ」
「えっ、何でも・・・ですか?」
「えぇ。いいわよ、好きなだけ食べなさい」
「好きな・・・だけ?・・・じゅるり・・・本当に・・・?」
「えぇもちろん!女に二言はないわ!」
「お姉・・・様」
「ここに座って食べなさいよ。あっ、まだ名前を名乗ってなかったわね。あたしはリリス。そしてこっちは精霊のキュウちゃんよ。キュウちゃんは少年の姿にもなれるんだから。どう?すごいでしょ!!」
キュウも少年の姿になり挨拶をした。
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何でも焼き尽くす炎魔法と何でも凍らせる氷魔法がぶつかった時に一体どうなるのか?カイロと2人で熱く議論を繰り広げているとリリス達が戻ってきた。
「おぅ、お帰り。でもご飯にしてはだいぶ時間がかかっていたようだけど何かあったのか?」
「えぇ、まぁ・・・。あっ、カイロさんこんにちは♪」
俺の隣がカイロだと気づいたようでリリスは挨拶をした。どうやら水を流されたであろう張本人はあの時の事をなんとも思っていないらしい。また愛嬌を振りまいている。
「リリスさん、こんにちは・・・」
こっちの方が気まずそうじゃないか。
「あっ!こっちにおいで。トオル君。この子がさっき話に出てた弟子になったラナだよ」
カイロは奥の女の子に気づくと俺に紹介してくれた。
「はじめ・・・まして、ラナ・・・です」
茶色のツインテールをしたおぼこい女の子である。服装は独特でまるで忍者のようだ。しかし、見たところ13か14歳位だろうか?まだ、くの一というよりは忍者少女って感じがする。
「ところで、そちらの少年は初めましてだね。僕はカイロと申します。以後お見知りおきを」
「知ってるよ」
「えっ?」
その少年は元の精霊の姿に戻った。
カイロはどうやらキュウが少年の姿になれることも知らなかったようである。
・・・よし!空気を変えよう。
俺はできる男だ。
「あ、ラナさんでしたね。初めまして、須木透です!どうぞよろしく!話はさっきカイロさんからお聞きしました。カイロさんの弟子になったみたいですね。カイロさんはすごい人ですよ!僕達も一時パーティを組ませてもらったんですけど、その剣技でモンスターを圧倒していて、すごく格好良かったです!近くにいるとすごく勉強になると思いますし、いい師に巡り会えて良かったですね!!」
これでどうよ?
「えっ、あんた何言ってるの?この子は、さっきあたし達のパーティに入りたいって言ったから入れてあげたのよ。これからはあたし達の仲間よ!」
「はい。お姉様に・・・ついて・・・行き、ます」
「え?!」
一体何が起こっているのか?
カイロは知らぬ間に弟子も失ってしまったようだった。
さすがにもうかける言葉が見当たらない。
「ところで、さっきからそこに立っている、がたいのいいおじさんは?その人も仲間か?」
「・・・酒場のコックよ」
「コック??え、料理人まで仲間にしたってのか??」
「1万Δ(デルタ)のお支払いはトオル様からとお聞きしておりますが」
詳しい事情を聞くと、色々あってリリスが格好つけてラナにご馳走してあげると言ったらラナが1万Δ(デルタ)分の料理を食べてしまったらしい。それで食べ物で買収されたのか、リリスに魅力があったのかは知らないが俺達の仲間になりたいと言って来たんだそうだ。
「だって、だって!あんな小さな身体でまさかあんなに食べると思わないじゃない!?
あたしも女に二言はないって言った以上、途中で止められなかったのよ!でもその代わり新しい仲間が増えたんだからいいじゃない。プラスマイナスゼロよ!」
「トオル様、1万Δ(デルタ)のお会計をお願い致します」
ちょっとずつ、摺り足で近づいて来ていたおじさんの圧が半端なかったので支払うしかなかった。記念すべき初報酬はあっという間に消えてった。