エピローグ
「あ、ミミ先輩。久しぶりですね!」
ただ二つの目にボサボサの赤髪。白衣の袖から覗くのは白い肌。十七歳の少年が、黒色の液体をフラスコで混ぜながら、嬉しそうに言った。
「ミミ先輩、夏休み中は毎日活動するって言ってたのに、全然来なかったじゃないですか。もう残り二週間もないですよ。」
金髪の後輩もそう続く。
ちょっとだけ旅に出ていたのよ、と私は適当にあしらった。
「ミミ、このドでかい装置は何だ。」
部員がごんごんと機械を叩きながら聞いてきた。自作のタイムマシンである。ドントタッチと書き置きをしてあるのに、ぞんざいな扱いだ。
「何だっていいじゃない。幽霊部員が口出ししないでいただけるかしら、ミロクくん。」
つい敬語混じりになりながらたしなめる。まだ理事長ではないんだった。まあ、理事長になったところで、威厳は感じなかったのだけど。
普段は全く活動に参加しないくせに、夏休みだけ小言を言いに来るなんて、厄介なやつ。
「俺には生徒会として設備を把握する義務があるんだよ。」
ミロク君は相変わらず、生徒会活動に明け暮れているらしい。その様子だと、夏休み中もほとんど部室には来ていないのだろう。数少ない部員なのだから、もっと積極的に参加してほしいところだ。
「何も問題はなかった?ヒカリくん。」
頼みの綱である副部長に確認する。面倒見の良さはさておき、この魔法博士は毎日学校へ来ているのだろう。
「部長が不在だった以外は、特に。」
まるで他人に興味がないような答えが返ってきた。人体模型を触るのに夢中で、視線すら合わせてくれない。人に興味を抱かないのは、血筋かもしれないな、と考えてしまう。
「私だってもうすぐ卒業なのよ。私が居なくても二人は大丈夫でしょう。」
かわいい後輩を指して言う。
「でも寂しかったですよ、ミミ先輩。」
桜山ガクが薄く笑いながら言った。今日も後輩はかわいい。
期末テストで岩塚ナガレが数学首席を獲って、学園内ではすぐに噂になった。今までレッドミーティアと散々舐められていたのだ。当然である。
その陰で築地口ワドがかなり成績を落としているのだが、そんなことは誰も話題にしなかった。
学級委員から外されたマドカは、しばらく機嫌が悪かった。しかしそんな様子も束の間で、どうやら奨学金を受ける目処が立ったらしい。気を取り直して、放課後はアスクの学級委員の仕事を手伝っている。あまり生活に変化はなさそうだ。
リカは相変わらず、テツに全て任せて授業をサボっているらしい。今までは中庭で読書をしていることが多かったが、学園外でも魔法が使えるとわかった以上、リカは自由である。生徒たちが授業を受けている間に、たびたび学園を抜け出していた。
そんな変化にも慣れ始め、ささやかれていた噂も聞かなくなった夏休み。僕とナガレはヒカリに連れられて、墓地に来ていた。
数週間前まで一緒に学園で過ごした女の子が十数年前に亡くなっていました、なんて変な話。僕も一緒に来てしまっていいのか疑問だったが、ヒカリにとっては僕も岩塚ナガレと同じようなものらしい。寛容というか適当というか。そういう大雑把な部分も、ナガレにそっくりである。
まぁ、僕にも言いたいことがあるのだから、嬉しい次第だ。
花を添えて、手を合わせる。
君のことだから、またすぐに遊びに来るんでしょ。
同意するように、花が微かに風で揺れた。
***
最後まで読んでいただきありがとうございます。作者の山吹優乃です。
こちらの作品は小説賞に応募したところ、見事に一次審査すら通らなかったもので、そんな文章を最後まで読んでくださったことは感動ものです。
今後も精進していきますので、少しでも何か感じるものがあれば見守っていただけると幸いです。