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バンっと大きな音がしたあと、ミシリッばこっ!と音を立ててドアが外れる。
あ、まずい。視界がドアでいっぱいになる。これは潰される。
全てがスローモーションのように感じた。
避けられない。
「窓から逃げてっ」
私は叫んだ。
「マリア様っ!」
蹴破られると同時にバタバタと室内に人が押し寄せよる足音。
全身殴打の痛み、外れたドアがなにかに踏まれバウンドしてまた私を叩く。
私は吹き飛ばされたドアと床の間に挟まれ意識を失った。
「殿下待った!マリア様がっ」
ハンスの声がする。
もえるように体が熱い。
そして、うしないゆく意識のどこか遠くで周囲の喧騒を聞いていた。
気を失ってしまったようだ。
全身の痛みに意識がフッと浮上する。
どのくらい気を失ったのだろう。
二人は無事に逃げられただろうか。
寝かされた身体の一部が持ち上げられ、なにかが巻かれるような感覚。
私は今きっと暴漢に拘束されているのだろう。
どんな状況だろうか。拘束される様子から暴漢が近いことが分かる。ここは目が覚めていないふりをして周囲の様子を伺わなくてはいけない。
「マリア様」
ヴァネッサの声だ。逃げ遅れたのかもしれない。私は様子を伺うことをやめて慌てて目を開け身体を起こした。
「っ…ぅ…。ヴァネッサ!無事なの!?ハンスは!?」
「無事ですよ」
ハンスの声だ。
「マリア様っ!?良かった、目覚めたんですね」
ヴァネッサが安堵の涙を流してこちらを見ていた。
ハンスの無事も確認しようと声がした方を見ると、頭を下げたハンスがそこにいた。
「ハンス?」
助けがきたのか、どうやら安全な場所にいるらしい。
良かったとほっとした。
そして、私は思い出した。
我が家が不正を働いていたこと、それの調査のために二人が派遣されていたことを。
ハンスもヴァネッサもうちの使用人ではないのだ。
私は青ざめる。痛みを訴える身体を床におとしその場に慌てて平伏した。
寝かされていたのはふかふかのベッド。
ベッドの上で犯罪者が寝かされていいはずがない。
それに拘束されているのだろうと思ったのに包帯を巻いてくれていた。
「このようなお見苦しい姿で申し訳ありません。また助けてくださっただけではなく、治療も施してくださり誠に感謝しております。ハンス様とヴァネッサ様におかれましては今まで家族のように接してくださりとても感謝しております。また、我が家の不正調査のために派遣されてきたお二人に対して気安く接してしまいましたことをお詫び申し上げます。」
「マリア様、怪我で熱がでているのですよ。布団にお戻りください。」
ヴァネッサが叫ぶようにいった。
「この首ひとつで足りるかは分かりませんが、王家とお二方、領民に対してお詫びとして差し出せるものが首以外に他にございませんのでご容赦ください。毒杯でも斬首でも如何様にでも償うつもりです。領地を治めてくれていた執事達に罪はありませんのでどうかご容赦を。」
ハンスが平伏する私の前に膝をつき頭をおあげくださいといった。
「マリア様と伯爵家に罪などないではありませんか。貴女は5歳のころからしっかりと領地を治めておりました。あの不正は貴女が領地を治める前にあの女の実家、男爵家主導で伯爵家の財産を掠め取って行われたこと。貴女が気に病むことではない。それに貴女は被害者だ。それよりも説明不足で怪我を負わせてしまい、大変申し訳ありません」
後程、ことの次第を説明しましょう。でもまずは身体を治してからです。
有無をいわせず身体を持ち上げられ、私は布団に戻された。
でも…と口を開くとヴァネッサにもハンスにもまずは寝ることが償いになるといわれて私は目を閉じるしかなかった。
身体はとても熱いのに肉体はぶるぶると震えている。
奇妙な感覚だ。
眠ると言うよりと気絶するという方が正しいように深く意識を手放した。
ドアが外れる瞬間は実際に見るととても怖いです。
べこーんっと外れてドアが襲いかかってきます。
地震の時に見た様子を参考にしましたが怖いのでもう経験したくないです。
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