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「なんでも…ねぇ。」
にたりとお母様が笑った。
胸元からピンクの小瓶を取り出す。
お父様が執務室の棚を漁る。
いかにも少女が好みそうな封筒がでてきた。
そしてそれらを机に置いた。
「では…マリア。貴女はこの手紙にサインをしたあと、この薬を飲みなさい。ああ、婚約同意書ではないわ。それから」
ばたーんっ!!
お母様が私に指示を出そうとしている最中、物凄い音を立ててドアが開く音がした。
がしゃーん!どたっどたどた、どどどどどど。
ばたんっ。ばたん、ばたん。
「何をするのっあんた達も何してるの」
お母様の侍女の声がする。
「誰よ貴女達っ」
きいきいと甲高い声で叫んでいる。
お父様に昔から仕える執事の声がする。
「お前達、裏切ったな」
こんなに騒がしいのに、昔から支えてくれていた使用人達の声がしない。
何かあれば真っ先に入り口まで向かい、屋敷を守ろうとしてくれる大切な人達。
私は彼らの安否が心配で青ざめる。
「マリア、サインも薬も後ででいいわ。私達の代わりに様子を見てきなさい。」
「奥様、何かあるといけません。お嬢様の代わりに私達が。」
背後を支えてくれるハンスとヴァネッサが言った。
「婚約破棄される娘のために城に戻っていただくのだから貴殿方はすでにマリアとは関係がありません。これはマリアが向かいます。」
お父様が言った。
「しかしまだ破棄はされておらず「こちらには誰もいらっしゃいません」
ハンスの声に被せるようにお父様の腹心の執事の声がした。
ここだ、いれませんと、争うような声がする。
「マリア、屋敷にどうやら暴漢がいるようね。まだ声は遠いわ。ドアの前に立って盾になりなさい。ハンスとヴァネッサも使用人なのだから我々を守りなさい」
先ほどとは一転して、お母様もお父様もハンスとヴァネッサと私を盾にしようとしている。
お母様とお父様は何かあったとき用の隠し扉を開けて逃げようとしている。
「マリア、領民が大事ならよく考えることね。ハンスとヴァネッサも良かったわねぇこれで、娘を守れるわよ」
二人がそう言いながらクローゼットに消えた。
ばたんっ!がちゃがちゃ。
クローゼットの扉が鍵を閉める音と共に閉まった。
私は覚悟を決めた。
侍女として仕えてくれてるとはいえヴァネッサは高位貴族の令嬢だろう。
ハンスだって色々と身の回りの仕事を勤めてくれていたが正式な立場はきっと私より上だ。
「ヴァネッサ、ハンス。今まで仕えてくれてありがとう。聞いてもらえるか分からない最後のお願いだけれど私を置いて逃げてほしいの。二人までなら隠れられる場所はあるわ」