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王妃様は私を預かるとお母様に言ったあと、私をローズガーデンのなかのガゼポへ連れていき紅茶とバタークッキーをたくさん目の前に置いた。
私はマリアと申しますと自己紹介をしてから着席した。
着席してすぐに王妃様は私に申し訳なさそうな顔をして言った。
「ごめんねぇ、お茶会に来たばかりだから最低限の挨拶だけは済ませてくるわねぇ。よし行くわよ!」
「ええー、お母様僕はどうしても行かなきゃ駄目?」
第2王子がごねている。
「当たり前でしょー」
私は申し訳なくなり、王妃様に言う。
「お忙しいようなので、案内の侍女をお貸しいただけたらちゃんと帰宅しますので…私のことはお気になさらず」
王妃様はビックリした顔をした。そしてにんまりと笑った。
「やだわー。未来のキールちゃんの嫁を逃すわけないでしょ♡母親はエミリー・グレイスなのね」
「あの、王妃様。お母様と私は養子となりますので血の繋がりは…」
「あら?あらあらあら、じゃあ貴女は本来は誰の子かしらー?」
「前グレイス家当主のポール・グレイス、その妻のアーネ・グレイスの娘になります」
「あっ、急にご両親が行方不明になってしまって…残されたという一人娘の…」
王妃様の顔が陰る。
「申し訳ありません。余計なことを言いました。」
「いいえ、ご両親にはとても世話になったのよー。まさか急に行方不明になるなんて…」
「あの、不敬でした。忘れてください。」
「そう、でもエミリー・グレイスとは血縁がないのね?血縁がないのね?」
妙に嬉しそうに王妃が言った。
そう、三年前の私が二歳のときに両親はいきなりいなくなった。
そして行方不明の兄の代わりに弟のハラクロイ叔父様が伯爵家を継ぎお父様となり、その妻のエミリー叔母様がお母様となった。
そこから幸せだった生活は一変して、躾、躾、躾の日々になった。
教師達は誉めてくれたけどお父様とお母様はできて当然だと一切誉めてくれることなく育った。
血の繋がりのない両親の代わりにこっそりと愛情は使用人達がくれたので不自由はなかったが大きいミスをしたときに両親に食事を抜かれたりするのは辛かった。
使用人たちもこっそり食べ物は差し入れてくれるが、与えたのがバレると困るので飢えない程度のビスケット数枚などをもらい、その都度食べた。
「辛いことを思い出させてしまってごめんなさいね、ねねっバタークッキーは、お好き?」
「好きです。昔食べたときに美味しかった記憶があります」
「そう、どのくらい前に食べたの?」
「私の本当のお父様とお母様と一緒に食べたときなので…三年前でしょうか」
王妃様の表情が抜け落ちた。
「ふぅん…彼女、なにも変わってないのね」
「あの…王妃様?」
「あっ、ごめんなさいねマリアちゃん。じゃんじゃん追加させるからばんばん召し上がれ」
「ありがとうございます。」
にこりと笑って私は答えた。
王妃様はからだの向きを変えた。
「キールちゃん、キールちゃん。」
ツンツンぷにぷにと、ぼーっとしている第2王子の頬を王妃様が刺激する。
「やめてください母上っ」
にまーっと王妃様が笑みを浮かべた。
「母上?母上ですって」
「ずっと母上と呼んでおりましたが?」
「ふぅーん、母上ねぇ…ふぅーん?」
にまにまにまにまと笑みが止まらない王妃様。
なにかとても面白いことがあったみたいだ。
「キールちゃん。一応、一応ねお茶会行くけど、決めちゃっていいわよぉ」
「母上、キールちゃんではなくキールと呼んでくれといつも言ってるではないですか」
「あら、そぉ?キールちゃんではなくキールでいいのね」
「ずっとキールちゃんではなくキールでしたが?」
「あらあらー?まあいいわー。マリアちゃん、ごめんねぇちょっと食べててね」
そう言って王妃とキール様は仲良さげにお茶会へ戻っていった。