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一方その頃、マリアはマリアで悩んでいた。
家が犯罪をおかしていた。
マリアも罪に問われるだろう。
しかし、罪が判明したあとも怪我をしたマリアをそのまま牢にいれることもできたのに恩情で治療までしてくれた。
医師まで呼び、包帯を巻き、寝床と食事に見張りかもしれないが世話役もいる。
その待遇から、処罰は死を与えるためのものではないだろうとマリアは判断した。
ヴァネッサがお金に関して、再度勉強しましょうと言った。
その言葉から推察するとマリアへの罰は爵位剥奪の上での平民落ち。
ララの様子から、お金はなんとか稼げそうだとわかった。
次に考えなければいけないのは今後のことである。
屋敷の人々のことに関してなんとかしなくてはいけない。
グレイス伯爵家のせいで働く人の生活が脅かされてはいけない。
マリアが目を覚ましたあとに手紙が来た。
そこにはグレイス伯爵家の使用人一同は無事であり、お帰りをお待ちしておりますと書かれていた。
屋敷は色々調査などが必要なため、元のように暮らせるまでは新しく生活できる別宅を手配してもらったそうだ。
無事に過ごせているようで何よりである。
グレイス伯爵家で働く人たちの職場をどうしようか。
グレイス伯爵家がどうなったとしても使用人は国に頼んで雇ってもらえるように手配するか、どこかへ紹介状を書いて持たせて別の場所で雇ってもらいきちんと生活できるようにしなくてはいけない。
グレイス伯爵家には領地経営に強い執事、家事や裁縫が得意なメイドがいる。
主人不在でも領地経営を行える執事、生活全般を万能にこなすメイドは引く手はあまただろうとマリアは思っている。
家族みたいに育ててくれてありがとうとマリアは感謝している。
そんな優しい人たちに苦労を掛けるわけにはいかない。
渡せる額は雀の涙となるが、給与とは別に餞別も用意しなくてはいけない。
元々の雇い主が男爵家の使用人は、マリアのことが嫌いなため紹介状を嫌がるだろう。ヴァネッサに頼み込んでマリアが書いたのではない紹介状を用意しようと思っている。
様々な問題をマリアは紙にまとめた。同時にその問題の解決策になりそうなことを忘れないようにメモしていく。
一心不乱に書いていく。
そして、用意した紙があと少しのところでマリアは書く手を止めた。
「王命で婚約は継続の予定だったけれども…キール様…いいえ。第2王子殿下とは…もう…。ああ…王家の皆様とも……………」
マリアが思い出したのは、婚約破棄を申し付けられたあの日。あの日にマリアが信じていたものがひっくり返ったのだ。
今さらもとには戻れない。
マリアは、震える手で丁寧に紙に文字を書いた。
第2王子殿下と婚約破棄。
王家の皆様へ謝罪と離別。
考えても、考えてもこの二つに関してマリアは受け入れることができない。
しかし、心がどんなに嫌だと叫んでも従うしかないのだ。
解決策は、思い浮かばない。