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ララが宰相が今いる部屋に向かい、入室を許されると中には頭を抱えたハンスがいた。
入ってきた宰相はララに声をかけた。
「なにかありましたか?」
ララは顔をキリッと整えた。
これから大事な商談に向かうかのような顔。
「はい、宰相。マリア様のことなのですが」
「おお、マリア嬢の、話しなさい。」
「まず、こちらのレース二種類をご覧ください。」
ララは机にレースを置いた。
それを見たハンスが反応した。
「マリア様のお作りになられたレースですね」
「一つは隣国で仕入れたもの、もう一つはマリア様からさきほどお預かりしたものです。」
「同じもののように見えますが…?」
宰相が問いかけた。
「ええ、多分同じものです。隣国でマリア様のレースが販売されているかと。マリア様はこちらを10枚で銀貨一枚で商人へ販売しておりました。しかしこのレース一枚辺り適正価格は金貨一枚です。」
「なんと!?」
「もし可能ならば我が実家にて適正価格で買い取らせていただきたいです。」
「そこは、陛下と王妃に相談しましょう。私は詳しくないのですが、そのレース細工はマリア嬢オリジナルのものでしょうか」
「供給量をみるとマリア様しかまだお作りになられてないと思います。隣国へ買い付けに行ったときにおととい入荷した新作だよという触れ込みでした。マリア様が作成した編み図が箱に一緒にありましたので他に流通していないと思います。」
「なるほど」
「かなり緻密な細工のため編み図がなければそう簡単には編めません」
「すると、マリア嬢で間違いなさそうですね…」
「さらにこちらをご覧ください」
ララは立て続けにマリアから預かった紙を机にのせた。
「シランド国の書物の翻訳です」
「シランド国の!書物も貴重だが…翻訳できるのは一握り…これをどこで?」
「マリア様が生活費の足しにしようと翻訳されておりました。これで一冊にできるとおっしゃっておりました。終わったら商人へみていただくとも」
「おお…なんということだ…それ一冊にどれだけの価値があるのか…ましてや翻訳されているとは…」
外交官として働く伯爵家には貴重な書物がある。
ハラグロイもエミリーも本には興味ないのか手を出さなかったのでやぶへびにならないように口を出さないようにしていた。
今、伯爵家の書物は燃やされてはかなわんとこっそり近くの宰相宅へ運んである。
それを少し見ただけでも歴代の伯爵家の人々がどれほど知識を大切にして収集して大切にしてきたかがわかる量だった。
ハンスは言った。
「マリア様はこともなく翻訳されておりました」
ララはキッとハンスを睨んだ。
「シランド国の言語を訳すことができる人材はかなり貴重です。」
ハンスはシランド国の書物がどれほど難しいのか読んだことがなく理解していなかった。しかし、その本をマリアに預けた過去からどのようにしてマリアが訳したのかはわかっていた。
「マリア様はシランド国の言語は辞書と家の執事に教わったと言っておりました。マリア様はお父様とお母様が向かわれた国だからと勉強したとも」
「わかっていたつもりでしたが、マリア嬢はかなりの才女ですね…」
宰相はマリアの認識を改めた。
「外交官の父母が残した本を読む、お母様が残した裁縫、レース編みなどを習得したいと幼い頃からせっせと頑張っておりました。また、ハラグロイが雇った教育係を除き、伯爵家の執事やメイドはマリア様の言語と裁縫などの教師も担っておりました」
「伯爵家の…」
外交官の家系であるマリアの家は多民族で構成されている。
様々な人の教育は、潤沢な知識をマリアに与えていた。