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「金貨一枚、金貨二枚、銀貨三枚、銀貨六枚、金貨二枚…」
マリアが次々に出す商品を見て、ララは頭の中のそろばんをひたすらたたいていた。
「あの…ララ様?…」
「はっ…マリア様申し訳ありません。あのこちら売っていただけるんですか…?」
ララはお宝を見つけたような目でマリアを見た。
「ハンス様に売っていいか確認していただいてますので…それからでしたら是非お願い致します」
「ありがとうございますマリア様。ハンスに確認ですね。ヴァネッサが戻り次第すぐにつかまえてまいりますね。マリア様、こちらで全てでしょうか」
「ええ、あとは翻訳のやつくらいしか…これは売る気はないの…紙だけだしね」
「翻訳…ちなみに言語は…!?」
「海向かいの、お父様とお母様が向かっていたというシランド国の本ですわ」
「シランド国…あの言語がもうお分かりになられると」
「ええ、いつか…いってみたいと思ってますの…」
「お父様とお母様が向かわれた地ですからね…」
しみじみとマリアがいい、ララが頷いた。
「しかしマリア様、シランド国のものなんて良くお持ちでしたね。そちらはとても貴重なものですよ」
「お父様の本なの…辞書を見て全部翻訳できるようになるまで時間がかかったわ」
「翻訳?できるようになるまで???まさかマリア様が翻訳したなど…」
「ええ…これで最後のページなの、家にある分を合わせれば一冊になるわ」
「一冊の???本に????」
ララは混乱した。
マリアの持っている本はそれこそ学者が使うような分厚さで、中身を確認していないがそれなりに難しいものである。
「一冊の本になれば、商人のかたが見て値段を決めて買われるそうで」
「あの、あのあのあの、マリア様。多分…多分なんですけれども…売るつもりで????」
「ええ、生活費の足しになればと思ってますの」
「あっ…あー、マリア様。翻訳のほうなんですけれども一度、一度お預かりしてもよろしいでしょうか。もちろん、確認したらお返しします。」
「ええ、かまわないわ。」
その時ヴァネッサが、失礼しますと戻ってきた。
ララは優雅に立ち上がった。
「マリア様、少々失礼いたしますね」
ララはこれ幸いとヴァネッサに駆け寄り小声でいう。
「ヴァネッサ様、ヴァネッサ様。マリア様が今流行りのレース職人でシランド国の本を翻訳できるなんて聞いてないんですがご自宅で金のなる木扱いされてないですか???すばらしくぼったくられてましたけど???シランド国の翻訳ができるとか学者が喉から手が出るほど欲しがりますよ???」
「ララ様、そんなに一息で捲し立てないでちょうだい。マリア様の価値観に関してはご実家で歪められてるみたいだから今そのためにお茶会を組んできたわ。」
「それはようございました。でもマリア様、城での調度品もろもろに関しては価値を理解されておりましたよね」
「ええ、ご自身のことになると途端に目が狂うようで」
「あと、ヴァネッサ様。マリア様のお作りになられたレースなんですが隣国流行りのもので今希少価値がとても高いのですが買わせていただいてよろしいものなんでしょうか」
「ハンスが確認しているけれど、きっとマリア様のしたいようにさせてくれるはず……………ララ様、マリア様のレースは隣国で流行りなの??」
「ええ、隣国から購入予定の納品待ち状態のものと同じものかと」
「ひとつお借りして早急に宰相へ相談してちょうだい。近くにいたら陛下や王妃様のお耳にもいれておいて」
「わかりました。」
ララはマリアに近づいた。
マリアは二人の様子を伺いつつ、布団にいる。
まだ医者から離床の許可を得ていないのだ。
「マリア様、レース細工をおひとつ預からせていただいてもよろしいでしょうか。」
「ええ、どちらがよろしいかしら」
「では、こちらを。」
ララは隣国から購入予定の柄と思わしきものをひとつ預かった。
編み図がないと難しい製品で、複雑な柄である。
レース細工を見せてもらうときにマリアのオリジナルとわかる編み図を箱のなかから見つけた。
これはマリアの作品だ。