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マリアは今、怪我による熱にうなされて寝込んでいる。
婚約破棄騒ぎに、屋敷の暴漢騒ぎ、そして怪我。
衝撃的な出来事が続いたあとだ。
疲労や心労、今までハラグロイとエミリーがマリアにしてきた仕打ち。そして怪我。
それらの要素が一度にマリアの体を蝕む。マリアはまだ未成年なのだ。
今まで心のなかに全て隠して気丈に振る舞ってきたマリアだが、限界だった。
マリアのなかでは王家の面々に嫌われていたと分かったことが一番辛かった。
ヴァネッサとハンスがマリアの世話をするため目覚めさせても朦朧としており、熱に浮かされたまま我にかえると謝罪する。なんとか寝かしつけても眠るとすぐに、悪夢が襲ってくるようだ。
ごめんなさい、ごめんなさいとうわごとで謝るマリアをヴァネッサとハンスは痛々しそうに看ていた。
ヴァネッサとハンスだが、分類としては戦闘メイドと騎士である。そんな二人を守ろうとして怪我を負ってしまったマリア。
守秘義務があるとはいえもっと説明すれば、守りきれなかったと後悔がつきない。
さて、寝込んでいるマリアだが二週間ほどで熱以外の怪我は治った。熱に関しても徐々に回復している。
マリアの身体は回復したが、マリアの心はポッキリと折れている。
しかしマリアは、母代わりに思っていた王妃から貴族教育を受けたのだ。そして自身には頼れる人がいない。どんな展開になろうとも表面上は今まで通りに振る舞えるわと心を奮い立たせた。
熱が下がりきちんと起きたときに居場所の説明があった。
マリアは、現在城に居るらしい。
マリア、伯爵家、今は罪人。つまりは犯罪者向けの牢か。
罪人用の貴族牢って私の普段のベッドよりふかふかなのだとマリアは思った。そして内装も豪華だなぁと思った。
マリアは自身が罪人だと勘違いしている。
マリアはまだ説明を受けていないのだ。
周囲は、医師から全て回復するまではフラッシュバックがあると思われるので負担をかけぬよう子細に説明はしないように言われているからだ。
そんなマリアがしっかり起きて、一番最初に気にしたことがある。
罪人の生活費ってどこから支払われるのかしらということだ。
マリアは今まで城に食費と養育費を自身の稼ぎで払ってきた記憶がある。
今までは支給されたお金と自身が縫いとりした刺繍や本の翻訳で払ってきた。しかし現時点でそれは見込めない。
看病してもらった上に食事なども保証してくれたのだ。
与えられた服も豪華、食べさせてくれるご飯も豪華、城に払ってきた生活費を考えると到底足りないわ。
伯爵家にあるものも返還しないといけないだろうし、知らなかったとはいえお父様とお母様…いえハラグロイ叔父様とエミリー伯母様のやってきたことを考えると最終的にはきっと死罪よねと思ったマリア。
そしてマリアは気づいてしまった。
現時点で唯一自身の持ち物で売れるものがあるじゃないということに。
幸いにもお風呂には昨日入れさせてもらったばかりだ。
マリアは、机にハサミがあると把握していた。
刃物なんて、犯罪者が悪用したらどうするのだろうと考えていたがきっと過去にも同じように生活費のためにと切った人もいるのかもしれない。
マリアは躊躇なくハサミの前にいった。髪紐で出来る限り髪を結った。
ポニーテールにして髪の根本にハサミをあてようとした瞬間、後ろからヴァネッサの悲鳴が響いた。
「マリア様っ!?」
ハンスが駆けてきてハサミを奪い取った。
自傷行為や自殺なんて考えないでくださいと怒られた。そうよね、罪が決まる前に死なれたらいけないものね。
ああ、これは勘違いされてるわ。
「違います。ヴァネッサ様、ハンス様。生活費がないので髪を売ろうとしただけです。自身の持ち物がなにもないので。」
ヴァネッサとハンスは、マリアの生育環境を恨んだ。
欲しいものがあれば用意するので生活費など気にせずに心安らかに過ごして欲しいといった。
マリアは考えた。
なるほど、あとでまとめて請求されるのか。そのときに髪を切った方が長いからだわと。