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作者にも展開は分からない
ごきげんよう、皆様。
私、伯爵令嬢のマリア・グレイスと申します。
幼い頃に第2王子のキール・ロイスと婚約が決まり、そこから二人で二人三脚、仲良くやってきたと思っておりましたわ。
今日は太陽がポカポカと気持ちよく、小鳥がチュンチュンと囀ずるとても素敵な日です。
とっておきのバタークッキーに香り高い紅茶。
テーブルクロスは可愛いお花のレース。
婚約者と将来の両親となる二人と親睦を深めるにはぴったりの組み合わせ。
ガゼポでお茶会を開きましょうと招待状が届き、薄ピンクのワンピースに白い日傘をもって城までお出掛け。
何て素敵な一日でしょう。
私はとてもいい日になると朝から浮かれておりました。
しかし、今の状況は…。
浮かれていた気持ちが一気に萎んでいくのを感じます。
深い絶望が私を襲いました。
なぜかって?
楽しいお茶会の最中でした。
椅子に座ってお茶を飲んで皆様と最近読んだ素敵な本に関してお話ししておりました。
するとキール様が突然椅子から立ち上がり、このように言ったのです。
「マリア!君と婚約破棄をしたいとおもっている!」
「あらあら…キール様?私なにかしてしまいまして?」
そう、ガゼポで陛下、王妃様にキール様でお茶会を開いていたら突然婚約破棄を申し付けられましたの。
「いるだけで罪だ!婚約破棄をするぞ」
周囲が無音になりました。
「これは…王家の皆様ご承知でよろしいんですのね?」
私は急なことに、驚きを隠せず目を見開きました。
王家の皆様と身内のお茶会で言うということは決定事項なのでしょう。
私は涙を隠せず、ぽろりと一滴頬を雫が垂れるのを感じました。
すると
「キール!またお前は世迷い言を!」
「マリアちゃん、違いますからね?キール!何を言い出すの!」
陛下と王妃様が慌てて否定しております。
でも私は悲しくて思わず言ってしまいました。
「キール様…お慕いしておりましたのに…」
「泣くな!!まだ続きがある!!」
キール様がなぜか焦った顔でこちらをみております。
「キール!!今すぐ謹慎なさいっ!!!マリアちゃんがいいというまで部屋からでないこと!!!」
王妃様がキールに謹慎を言い渡しました。
「しかし、まだマリアにいうことが」
「お前は何を考えてるの!?言葉が足りないにもほどがあるわ!!本当に破棄されたらどうするの!?」
王妃様が叫んでおります。
「いえ、ですから」
キール様がおろおろとしております。
「キール!!!お前は将来の結婚相手を傷つけることしかできんのか!!!」
陛下が顔を真っ赤にして怒っております。
近くにいた近衛が何事かと駆けつけました。
「キールのバカがついにやらかしおった。部屋までつれていけ、謹慎させる。」
やらかしおったと陛下がいうことは、皆様私が嫌われているのをご存じだったということです。
私というと、ぽろぽろと涙が止まらなくなってしまいました。嗚咽でしゃべることができないため侍女が差し出してくれたハンカチで顔をおさえております。
それでもなんとか言葉をひねり出さなくてはいけません。私は嗚咽まじりに発言しようとしました。
「わかり…ました…婚約…破棄……」
「婚約破棄はしないでちょうだいっ」
王妃様が私の言葉を遮りました。
「でも…」
「マリア嬢…うちのバカが阿呆な発言をしておるが、あれは違うからな。また王命での婚約として破棄は認めぬ」
「承知…しま…した…………」
「陛下のバカっ!マリアちゃん、違うのよ。うちのバカどもが、ごめんなさいね」
「……………………」
ぽろぽろと涙が次から次へと溢れてきて、私は喋ることができませんでした。
いったいいつからキール様に嫌われていたのでしょう。
出会ったときから嫌われていたのでしょうか。
皆様と私が仲良くできていたなどと幻想なのでしょう。
だって、キール様に嫌われていたことを皆様承知だったのでしょう。
仲良くできていると思っていたのは私だけだったのですから。
私をみるのはさぞ滑稽で面白かったでしょう。
なにも気づかず、ただ嬉しそうに振る舞う私こそが阿呆のようです。
「マリア…婚約破棄は絶対にするぞ!諦めないからな!」
近衛兵二人に引きずられながらキール様が叫んでいます。
「キール!!!」
王妃様が怒りながらキール様を叱る声をあげています。
泣いていても仕方ありません。
皆様に嫌われていたことを自覚いたしましたので、早く泣き止んでこの場は何事もなかったかのように辞して、お父様に言わなくては。
幸い、私の他に第2王子の婚約者にむかれた年齢のご令嬢がおります。
王命とはいえ、嫌われておりますので他のご令嬢とご婚約がまとまるまでの繋ぎとしての役目を果たせばこの役目を終えることができるでしょう。
「マリアちゃん…違うのよ…キールは貴女の事が好きなのよ。婚約破棄なんて真に受けないでちょうだい」
王妃様が、おろおろと慰めの言葉をかけてくださいました。
「承知しました。王妃殿下の…お心のままに…」
私はせめて不快感をあたえないようにと回答しました。
そして続けました。
「大変申し訳ないのですが…本日は…退席することをお許し…いただけます…か」
私は目の前の二人に乞いました。
「王妃殿下なんてやめてちょうだい。でもそうね、今日は帰りなさい。」
「退席することを許す、許すが婚約破棄は許さん、継続するように」
「ありがとう…存じます。」
私は退席を許され、早く帰ろうといわんばかりに待ちかまえていた侍女に肩を抱かれながら城を出ました。
急ぎ足で廊下を通ります。
お茶会の時はまるで周囲に花が飛んでいるようだと浮かれている私が泣きながら帰るものですから、人々は何があったのかと勘ぐるでしょう。
途中で会った城で働く方々に驚いたような顔で見られてしまいました。いつもなら会釈して少しだけお話しするところです。
しかし今日は、私はそれどころではなく嗚咽をこらえ、ただただハンカチで顔をおさえて涙がこぼれないようにおさえるだけでした。
私は、城で泣きながら帰宅の馬車に乗りました。
なるべく人通りが少ない道を通りましたが何人かに見られてしまいました。
さすがに城のなかは近衛に守られながらの帰宅ですがどうしても泣いている姿は見られてしまうものです。
「どうしましょう……」
お父様に報告もですが、キール様に嫌われていたことや王家の皆様からよく思われていないことが分かってしまいました。
でも、仕方ありません。
私は王家の皆様を家族のように感じており、キール様をお慕いしておりましたが今日でそれも終わらせなくてはいけません。
婚約は継続といってましたが、将来的には破棄されてしまうでしょう。もしかしたら白い結婚で離縁されてしまうかもしれません。
私は家族のように思っておりました。王家の発展をお祈りしております。
この家族のように慕う感情を捨て去るまでもうしばらくだけ、情をよせることをお許しいただけますか。
ハンカチに顔をうずめて泣きながらそう考えていました。
ひひん、と馬がひと泣きして馬車が屋敷に着きました。
御者をつとめてくれるハンスがこちらの様子を伺いながらドアを開けてくれます。
「お嬢様、婚約破棄なんてなにかの間違いですから気を落とさないで。絶対なんかありますから」
馬車に向かったとき泣いていることにビックリして侍女から事情を聞いたハンスが慰めてくれました。
「ありがとう」
私は無理やり笑顔を作りながらお礼をいいました。ハンスはとても優しいです。
馬車からおりて伯爵家のドアまで向かいます。
出迎えてくれたドアマンやメイド、執事たちが泣いた様子の私をざわざわと迎えます。
執事頭が、私の部屋に暖かい紅茶を持ってくるようにメイドに頼んでいます。
メイド長が顔を冷やすものなどを持ってくるように指示しています。
ですが、今日は身支度よりも先にやることがあります。
お父様に報告しなくてはいけません。
お母様にもきいてもらわなくてはいけません。
執事頭に頼みます。涙は馬車で終わりです。
メイクが崩れてしまったけれども、着替えもしなくてはいけないけれど、大事な話をしなければいけません。
「至急報告がありますので、両親に今すぐ時間をもらえるようにお願いしてちょうだい」
執事達が慌てて伝言を伝えにいきました。
「お嬢様、せめて顔だけでも整えましょう」
返事があるまで部屋で待機します。
両親がそろう部屋に報告のため共に向かう予定のお付きの侍女が薄くメイクなおしをしてくれました。
私は落ち着くために水差しから水を飲みます。
喉がからからでした。
お付きの侍女にもたくさん話してもらうからと共に飲むように促しました。
こんこんっ。
「お嬢様、支度が整いました。」
ドア向こうから執事頭の声がしました。
「すぐに向かいます」
私は両親のいる応接室へ向かいました。