第9話 嵐の前の一時
「祭りの事、完全に忘れてたぞ!!」
ナカちゃんの姿を見るなりショウコさんは手を叩いて言った。
「悪いけど今から買い出しに行って来てくれ!」
完全に話の続きが出来る空気では無くなってしまった。
「おし!行くぞ!」
ナカちゃんの話では年に一度の祭りが近いらしい。
祭りには人々の平和を願う意味があり必ず行わなければならないが先日の襲撃でどうやら完全に忘れていたらしい。
「話の続きは後で良いか」
もしかしたら、ショウコさんは後に起こる出来事を知っていたのかもしれない。
無理にでも話の続きをしなかった事を僕は今でも後悔している。
「悪いな…」
思い返すと記憶の景色の中でショウコさんの一言が聞こえた気がした。
それから僕とナカちゃんは街に出た。
「お!ナカちゃん!リンゴ良かったら持っていくかい?」
「また勝手に出撃してショウコさんに怒られたんだって?」
「今日は私服なんだね!珍しいね!」
街にはたくさんの人間がいて皆ナカちゃんに笑顔で声をかけてくるのだった。
彼女はどうやら街の人気者のようだ。
一通り買い物が終わり一息ついた所で僕はずっと気になっていた事を聞いた。
「ナカちゃんはどうして僕を助けてくれたの?」
こんな危ない世界で自分が誰なのかも分からない。
そんな僕をどうして助けてくれたのか、それがずっと気になっていた。
「うーん…」
ナカちゃんは難しそうな顔をした後に僕を持ち上げて笑った。
「言ったろ?目の前で倒れてるもんを放置出来る程アタシは人でなしじゃねぇんだ!」
今日の彼女に向ける街の人々の笑顔の理由はきっとこれなんだろうなと僕は思った。
口は悪くても正義感が強くて本当は凄く優しい。
「それにアタシの名前は世界中の皆を笑顔に出来る様にってショウコさんが付けてくれたんだよ。」
そしてショウコさんの事が大好きできっと本気で心から世界の平和を願っている。
改めて彼女にありがとうを伝えようとした瞬間、街中のサイレンが鳴り響いた。
「何が起きた!?また敵か!?」
僕はこの後、幸せな時間は嫌と言う程に短い事を心から思い知らされる事となる。