第13話 無力
「ふざけんな!!」
男達は顔を真っ赤にして飛び掛かってきた。
筋骨隆々の太い腕が僕の髪の毛を引っ張る。
「鎮まれ!!」
突如として天から降り注いだ声と共に僕を掴む男達がバタバタと倒れていく。
声はやがて黒い影の塊となり目の前で人の形を成した。
「あっ!!」
影の正体は泊地で僕に招待状を渡した老人だった。
「一次試験通過おめでとう」
一次試験という不穏な言葉を口にすると老人は持っていたカバンから得体の知れない物体を取り出した。
「そいつは我ら人類が憎むべき敵の核だ。
最終試験の内容はその核を取り込み力を己が物にする事だ」
「力を己が物ってどういう事ですか…?」
とんでもない事が老人の口から告げられた。
この世界における異能は全て奴らの核を取り込み発現するのだ。
以前ナカちゃんが見せた力やショウコさんの強さの正体はこれだった訳だ。
「ちなみに断ればこの場で射殺する。
もし政府が敵の核を使い人体実験まがいの事をしているとなれば大変だからな。
悪いが君に残された道はこれに適応し力を得るか出来ずに死ぬか提案を断り
私に殺されるかだ。」
何が必要なのは覚悟だ。
ほとんど脅しじゃないか…
老人はどこからか取り出した拳銃を僕に突き付ける。
「こうなったらどうにでもなれ!」
口に近づけると核は不思議な事に霧状になり僕の体内に溶け込んだ。
次の瞬間、僕の全身を激痛が襲った。
喉から胃が焼ける様な強烈な熱が内側から全身に広がり目が眩む
それは一瞬にも永遠とも思える時間で激痛が収まる頃、辺りは日が落ちていた。
我に返ると老人は姿を消しており代わりに目の前には手紙が置いてあった。
君が取り込んだ核は先日の前任提督が死亡した海域で回収された物である。
君は奇しくも仇の力を取り込んだ事になる。
しかし、それはこれから君の大きな力となるだろう。
これからも努力を怠らず誠実に励みたまえ。
改めて第六十二代提督就任おめでとう
何だかよく分からないけど試験には合格したみたいだ。
本当に僕は強くなったのだろうか?
「とにかく帰らなきゃ」
倒れている男達を踏まない様に僕はコロシアムを後にすると列車に乗り込んだ。
何かが変わった実感は無いが僕は1秒でも早くナカちゃんに会いたくて帰路を急ぐ
泊地の前に着くと青い顔をした人達がいた。
「あの!ナカちゃんは?」
「それが…昨日から帰ってなくて」
何だか凄く嫌な予感がする。
ショウコさんの時の事が脳裏に浮かび僕は彼女と最初に出会った浜辺へと走った。
「なんで?」
始まりの場所には冷たくなったナカちゃんが倒れていた。
打ち寄せる波の音だけが膝を付いた僕の中でいつまでも響いていた。