第12話 選抜試験へ
「面白いじゃないか」
振り返ると80歳は優に越えている軍服の老人がいた。
老人は白い顎髭を蓄えつつも瞳に静かな炎を灯し幾つもの死線をくぐりぬけて来た様な風格を持ち合わせていた。
「パパ!?」
老人は黙れと言わんばかりに男の頭を杖で叩くと懐から出した紙を僕に手渡した。
パパという男の言動が気になったが渡された物に目をやるとそこには3日後の日付と場所が書かれていた。
【第六十二回連合国海上防衛極東泊地選抜試験】
本来であれば艦隊の指揮を務めるにはまず海軍兵学校に入り長い年月と膨大な勉強と訓練が必要なのだが今回は前線基地の指揮を務める者が殉職するという緊急を要す事態であり過程を飛ばしいきなり最終試験を行うとの事だ。
「試験に必要なものは覚悟だよ」
去り際に老人はそう言った。
試験の朝が来た。
思えば海岸で目覚めてから一匹で大きく行動するのは初めてだ。
海岸でナカちゃんと出会い二人でピンチを乗り越えた。
ショウコさんと出会いこの世界の人達の事も知った。
長いようで短かったこの数週間の色々な事が僕の脳裏に浮かんでは消える。
期待と不安を抱え僕は列車に乗り込んだ。
ここから先は何が待っているか分からない。
もしかしたら痛い目に合うかもしれない。
それでも僕の気持ちは変わらなかった。
ナカちゃんに笑顔でいて欲しい、僕に本当に力があるなら守ってあげたい。
その思いが今の僕の原動力だった。
「おい!何寝てんだ!」
目の前に車掌さんの顔があった。
いつの間にか僕は眠っていた様で列車を降りるとローマのコロッセオを思わせる様な建物があった。
ドーム状の建物中に入ると通路にはたくさんの壁画があった。
きっと奴らと人間の歴史よりも更に古く深い人間同士の争いの歴史が刻まれているのだろう。
「試験の内容は簡単だ!殴り合え!蹴り合え!最後の最後まで立っていた奴の勝ちだ!」
大きな声が鳴り響く方へ進むと広い闘技場の様な場所で筋骨隆々の男達が取っ組み合う地獄絵図の様な光景が広がっていた。
「邪魔じゃ!どけ!」
僕は後ろから来た男に宙に放り投げられた。
どれくらい経ったろうか?
投げられ踏まれ僕は散々な目に合った。
これじゃ試験も何もない。ただの乱闘祭りだ。
全身靴跡だらけになり地面に転がった僕の耳にマイクの男の声が響いた。
「今回の合格者は一名!ステージに上がりな!そこのカエル!」
周りの男達は争うのを辞めると一斉に僕に視線を集めた。