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毒はむ姫と白い花  作者: 夕藤さわな
第二章

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第五話

 二度目の投薬は彼女の体調を見て、一週間ほどあいだを空けて行うことにした。


 服も下着も脱いで、毛布で体を包んだ彼女に、私は小皿を差し出した。

「塗り方は前回と同じだから」

 私が差し出した小皿にはデンプンのりのように、わずかに粘り気のある透明な液体が乗っていた。私が生成した毒だ。

 彼女は小皿を受け取ると薬指ですくおうとして、ぴたりと手を止めた。一向に動かない手を不思議に思って、彼女の顔を見つめて私は息をついた。

 彼女の顔は青ざめていた。唇を噛み締めて、小皿を持つ手も、薬をすくおうとする指も、細い体も小刻みに震えていた。

「ちょっと待って。すぐ。すぐに、落ち着くから……」

 彼女は小皿を見つめたまま、へらへらと笑った。だが、彼女の薬指は震えるばかりで、小皿の上の毒に触れようとしない。

 一回目のときには何が起こるかわからなかったから、無鉄砲に毒を飲むことができたのだろう。だが、彼女は毒の苦しさを味わってしまった。血の気が引いて、脂汗が浮かんで、吐いても吐いても逃れられない気持ち悪さと鈍い痛みを知ってしまった。

 無意識に体が拒絶しているのだ。生物として正しい反応だ。羨ましくもあり、新鮮な反応でもあった。

 私は彼女の手から小皿を受け取ると、そっと銀の髪を撫でた。

「今日はやめて……」

「だめ!」

 私が言い切る前に、彼女が叫んだ。思ってもみなかった強い口調だった。

「明日はもっと……怖くなってる。今日、やらないと……」

 祈るように両手を握りしめて、私を見上げる彼女の目には、大粒の涙が浮かんでいた。泣くほどに、体が言うことを聞かなくなるほどに怖いのに、どうしてそんな風に言えるのか。

 私は毛布ごと彼女の体を抱きしめていた。小さな体はまだ震えていた。だが、

「マーガレットが塗って。お願い」

 何を言っているのか。そう聞き返すよりも早く腕を引かれ、思わずベッドの端に腰かけていた。彼女は私の足を枕にして仰向けに横たわると、口を開けた。歯磨きをお願いする幼い子供のように。

 でも、目は真剣そのもので――。

「わかった。……私の指を噛み千切るなよ」

 私はシーツの上に小皿を置くと、左の指を彼女のあごに添え、右の指で小皿の毒をすくった。

「努力します」

 真剣な表情で、不安になるようなことを言う彼女に、私は苦笑いした。彼女にしていることを思えば指を噛み千切られるくらい、どうということもないのだが。

「……っ」

 彼女の口内は温かく、頬の肉は柔らかかった。きつく目を閉じて、必死に大きく口を開ける彼女を私は複雑な気持ちで見つめた。愛おしさと罪悪感とがない交ぜになって、私の口元には自然と苦い笑みが浮かんでいた。

 私の指が頬の内側に触れるたび、彼女は体を強張らせた。小皿に乗っていた毒を口内にすべて塗り終え、手元を拭ってから、

「終わった」

 私はそっと彼女の強張った頬を撫でた。恐る恐るといった様子で目を開けた彼女は、弱々しい笑みを浮かべた。

 塗り終えたら私の膝枕は用なしになるかと思ったのに、

「マーガレット。手、つないでて」

 彼女は私のお腹に額を押し付けると、私の方へと手を伸ばした。経過を観察して、メモを取らなくてはいけない。迷っていると、

「お願い」

 ダメ押しのように、潤んだ目で私を見つめてきた。これはたぶん、確信犯だ。

 私は額を押さえてため息をつくと、

「わかった」

 彼女の手を取って、もう片方の手で銀色の髪を撫でたのだった。


 ***

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