第四話
ベッド横の書き物机に向かっていた私は、
「ん……」
小さな声に顔をあげた。
銀の髪を揺らして、彼女が半身を起こしたところだった。ゆっくりとまばたきをして、紫紺の瞳がじっと私を見つめた。ずいぶんと顔色は良くなったけれど、動きが緩慢だ。まだだるさが残っているのだろう。
「私、どれくらい我慢できた?」
「四十五分だ」
私の短い答えに、彼女は困り顔で微笑んだ。
「あちゃー、全然、目標に届かなかったね」
当初、一時間後に解毒剤を投与する予定だった。ぽりぽりと頬を掻いていた彼女は、はっと目を見開くと慌てて毛布を掻き抱いた。自分がまだ裸であることに気が付いたらしい。
顔を真っ赤にしている彼女に、下着と白のワンピースを手渡すとベッドのまわりのカーテンを閉めた。
「今日は初めてだったからな。それに我慢をする必要はない。無理をして死んでしまっては元も子もない。徐々に慣らして、毒への耐性をつけていくんだ」
衣擦れの音をカーテン越しに聞きながら、私は言った。淡々と、ろくでもないことを。だというのに、
「わかった!」
彼女は無邪気に、力一杯、答えた。
「私、頑張るから。母様やマーガレットのためにも。姉様たちやマーガレットのお母様のためにも」
カーテンが勢いよく開く音がしたかと思うと、
「だから、マーガレット。一年間、よろしくね!」
紫紺の瞳を細め、銀の髪を揺らして。白いワンピース姿の、まだ幼さの残る少女は天使のような笑顔でそこに立っていた。
暗幕で目隠しをした薄暗い診療所に、一瞬、暖かな光が差し込んだような気がして。私は小さな彼女を見下ろして、目を瞬かせた。
せめて彼女のわがままを聞けるだけ聞こう。目一杯、お姫様扱いしよう。
ふと、そう思ったのだった。